あの頃、僕には同じクラスに兄と姉がいた。美しい兄と姉。いうまでもなく、血は繋がっていない。高校3年だった。あれから随分、時間がたった。今の僕は、それなりの収入を得て、妻がいて、子供にも恵まれた。この生活に満足している。何一つ手に入れていなかった18歳の頃よりずっと。しかし、もしかしたら、見上げていた二人の輝きをじかに浴びていたあの頃が、僕は最も幸せだったのかもしれない。
僕は、校舎を走り、慌ただしく教室のドアを開けた。皆の視線が一斉に集まる。
「坂木、また遅刻か。最近、多いな」
小太りの男性教師は呆れ顔である。
「すいません」
「まあ、いいから早く座れ」
確かに僕は時間にルーズなところがあり、以前から時々、遅刻をしていた。しかし、最近それが増えたのは、自分としては正当な理由からだった。本格的に受験勉強なるものを始めたのだ。すでに秋も過ぎ去ろうとしている頃になって。
「随分、頑張っているじゃないか」
僕のひとつ前の席の藤沢が、からかいの混ざったような調子で声をかける。僕の兄である。
「もう遅いとは思うけど」
僕はぼそぼそと返事をして席に着いた。右隣の席に美しく咲く笑顔が視野に入った。矢野有紗。彼女こそ僕の姉である。
僕は、校舎を走り、慌ただしく教室のドアを開けた。皆の視線が一斉に集まる。
「坂木、また遅刻か。最近、多いな」
小太りの男性教師は呆れ顔である。
「すいません」
「まあ、いいから早く座れ」
確かに僕は時間にルーズなところがあり、以前から時々、遅刻をしていた。しかし、最近それが増えたのは、自分としては正当な理由からだった。本格的に受験勉強なるものを始めたのだ。すでに秋も過ぎ去ろうとしている頃になって。
「随分、頑張っているじゃないか」
僕のひとつ前の席の藤沢が、からかいの混ざったような調子で声をかける。僕の兄である。
「もう遅いとは思うけど」
僕はぼそぼそと返事をして席に着いた。右隣の席に美しく咲く笑顔が視野に入った。矢野有紗。彼女こそ僕の姉である。