6時過ぎ、藤沢が店に入ってきた。すでに日は暮れていた。
「ごめん、ごめん。待たせたね」
「孝志、それはいいけど矢野は?」
「うん、まあね。声はかけたんだけど、駄目だった。誠に「おめでとう」と伝えてくれと言ってたよ」
「なんだ残念だな。有紗ちゃん来ないのか」
白川さんは淋しそうだ。
「お父さん、なんか気持ち悪い。いい年して」
娘の亜衣に言われ、さらに淋しそうだ。店内が一瞬、静まり返った。
「それよりも今日は、誠の合格祝いだろ。よかったなあ、誠。おめでとう。プレゼントは何もないぞ」
藤沢が沈黙を破った。
「別に期待してないよ」
孝志が心から喜んでくれているのは、よく分かっている。それでも僕の気持ちはもうひとつ晴れない。
「私はありますよ」
亜衣の声は弾んでいた。彼女は有紗が来ないことが嬉しいのかもしれない。
「えっ、何かなあ?」
「あとで見せます」
「楽しみにしてるよ」
亜衣の楽しそうな顔を見て、僕も自然に笑みがこぼれたのを自覚した。有紗の不在を少し忘れさせてくれた。
「それよりなに食べる。張り切って作るよ。メニュー以外のものは無理だけど」
白川さんは気持ちを立て直した顔をしていた。
「ナポリタン。ナポリタンが食べたいなあ」
「そんなものでいいのか。遠慮しなくていいんだよ、誠君」
「いや、好きなんですよナポリタン。特にここのナポリタンが」
「そうか。じゃあ少し待ってて。亜衣、二人にサラダ出して」
「うん」
亜衣がサラダを取りにいった。
「もしかして、有紗と別れた?」
僕は小声で藤沢に尋ねた。
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「砂の塔」最後に数字は上げてきました。菅野さんは主演ドラマではほとんど1桁は取らない不思議な女優です。
しかし、ドラマの脚本自体は褒められたものではなかったです。当初は主婦のいじめがかなりメインに描かれていましたが、これが評判が悪かったため、路線変更でいじめシーンはほとんどなくなり、菅野さんと血のつながりのない息子の関係、また松嶋さんのフラワーアレンジメントもいつの間にか消え、菅野さんの息子を愛する実の母親の立場を押し出してきました。それでも足りないと思ったのか、最後は強引に菅野さんの幼馴染みの体操教室のお兄さんを犯人にするという、行き当たりばったりの内容でした。
こうした脚本の迷走に惑わされず、菅野さんはじめキャストは、それぞれ、自らの役を全うすることに徹していたのは賞賛に値するのではないでしょうか。
「ごめん、ごめん。待たせたね」
「孝志、それはいいけど矢野は?」
「うん、まあね。声はかけたんだけど、駄目だった。誠に「おめでとう」と伝えてくれと言ってたよ」
「なんだ残念だな。有紗ちゃん来ないのか」
白川さんは淋しそうだ。
「お父さん、なんか気持ち悪い。いい年して」
娘の亜衣に言われ、さらに淋しそうだ。店内が一瞬、静まり返った。
「それよりも今日は、誠の合格祝いだろ。よかったなあ、誠。おめでとう。プレゼントは何もないぞ」
藤沢が沈黙を破った。
「別に期待してないよ」
孝志が心から喜んでくれているのは、よく分かっている。それでも僕の気持ちはもうひとつ晴れない。
「私はありますよ」
亜衣の声は弾んでいた。彼女は有紗が来ないことが嬉しいのかもしれない。
「えっ、何かなあ?」
「あとで見せます」
「楽しみにしてるよ」
亜衣の楽しそうな顔を見て、僕も自然に笑みがこぼれたのを自覚した。有紗の不在を少し忘れさせてくれた。
「それよりなに食べる。張り切って作るよ。メニュー以外のものは無理だけど」
白川さんは気持ちを立て直した顔をしていた。
「ナポリタン。ナポリタンが食べたいなあ」
「そんなものでいいのか。遠慮しなくていいんだよ、誠君」
「いや、好きなんですよナポリタン。特にここのナポリタンが」
「そうか。じゃあ少し待ってて。亜衣、二人にサラダ出して」
「うん」
亜衣がサラダを取りにいった。
「もしかして、有紗と別れた?」
僕は小声で藤沢に尋ねた。
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「砂の塔」最後に数字は上げてきました。菅野さんは主演ドラマではほとんど1桁は取らない不思議な女優です。
しかし、ドラマの脚本自体は褒められたものではなかったです。当初は主婦のいじめがかなりメインに描かれていましたが、これが評判が悪かったため、路線変更でいじめシーンはほとんどなくなり、菅野さんと血のつながりのない息子の関係、また松嶋さんのフラワーアレンジメントもいつの間にか消え、菅野さんの息子を愛する実の母親の立場を押し出してきました。それでも足りないと思ったのか、最後は強引に菅野さんの幼馴染みの体操教室のお兄さんを犯人にするという、行き当たりばったりの内容でした。
こうした脚本の迷走に惑わされず、菅野さんはじめキャストは、それぞれ、自らの役を全うすることに徹していたのは賞賛に値するのではないでしょうか。