スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

スピノザと表現の問題&自然学の重視

2014-02-21 19:28:16 | 哲学
 実在的区別について論じたときに参考にとあげた『スピノザと表現の問題Spinoza et le problème de l'expression』。初期の参考文献にも入っていますが,詳しく紹介したことはまだありませんでした。
                         
 ドゥルーズGille Deleuzeは自身が偉大な哲学者ですが,当然ながら徒弟時代というのもありまして,哲学史の内部でモノグラフの研究に専心していました。時期でいえば1960年代のこと。ドゥルーズはその時代の研究成果として,ニーチェFriedrich Wilhelm Nietzsche,カントImmanuel Kant,ベルグソンHenri-Louis Bergsonなどの著書を出していますが,スピノザに関する成果を発表したのがこの本で,1968年に出版されました。
 上述のような性格から,基本的にこの本はスピノザの哲学の研究書であり,ドゥルーズ自身の哲学的見解を表明したものではありません。とはいえ,スピノザの哲学の研究にあたり,表現という問題をその突破口にしたのはおそらくこの本が最初。そういう意味においては,十分にドゥルーズの独自性も発揮されているといえると思います。
 スピノザの哲学の研究書ですから,当然ながら『知性改善論Tractatus de Intellectus Emendatione』とか『短論文Korte Verhandeling van God / de Mensch en deszelfs Welstand』などについての言及も多くあります。しかし基本的には『エチカ』の研究といっていいと思います。というのはこの本におけるドゥルーズの議論の進行のさせ方というのは,スピノザが『エチカ』で議論を発展させていくその順序とパラレルな関係にあるからです。ですから『エチカ』の参考書という趣が多分にあります。
 スピノザの哲学は必ずしも解釈が一致するとはいえません。なので参考書とはいっても,それはドゥルーズの見解であるという前提で読む必要があります。そのドゥルーズの見解に同意できると思えるような箇所については当然ですが,賛同できないという箇所に関しても,大いに参考になると思います。ドゥルーズの探求はそのために十分なほど丹念であるからです。

 スピノザの哲学における自然Naturaというものをどのように僕が解釈しているのかということが,僕がクレーファーのテーゼの中心部分である,スピノザの哲学は自然学を重視するという主張に同意することと,大いに関係しています。ただし,自然学を重視するということの内実がどのようなものであるのかということについては,クレーファーと僕との間では相違があるかもしれません。いい換えればこれは,スピノザの哲学に関するある解釈の結論において,クレーファーWilhelmus Nicolaas Antonius Kleverと僕は一致をみることが可能であるというほどの意味です。
 たぶんクレーファーがスピノザは自然学を重視するというとき,それは相対的な比較の上での主張ではないかと思うのです。もちろんそこでクレーファーが比較しているのは,哲学あるいは形而上学であり,とりわけ観念論を意識したものであると推測します。つまりクレーファーの主張は,スピノザの哲学は観念論的哲学よりも自然学を重視しているということであり,観念論と対比させていうならば,これはスピノザの哲学は唯物論的であるという主張に近似しているのだといえます。断っておきますがこれはあくまでも僕によるクレーファーの主張の解釈ですから,クレーファーが本当にそう考えていたかどうかははっきりとは分かりません。
 これに対して,僕がスピノザの哲学は自然学を重視するというクレーファーの主張を認めるとき,僕は相対的な観点からそのようにいうのではありません。むしろこれは絶対的なものです。つまり何かほかのものと比べてスピノザが自然学を重視していると僕は考えているのではありません。むしろ哲学とか形而上学といったものも自然学以外の何ものでもないのであって,そして学といえるようなものの総体が何かあるとするなら,それは自然学であるという意味なのです。つまりふたつの,あるいは複数の学を比べた上で自然学をスピノザは重視していると解釈するのではなく,それが唯一の学であるがゆえにスピノザの哲学は自然学を重視するというように僕は考えていることになります。

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