スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

スピノザ入門&ことばと観念

2013-06-10 18:35:03 | 哲学
 工藤喜作の『人と思想 スピノザ』と同じように,スピノザの生涯とスピノザの思想の両方を簡潔にまとめた著作として,フランスの哲学史の教授であるピエール=フランソワ・モローPierre-Francois Moreauによる『スピノザ入門Spinoza et le spinozisme』があります。原題は直訳すれば『スピノザとスピノザ主義』となるそうですが,著書の性格を判断し,訳者が改題したとのことです。確かにこの本は明らかに入門書といえますから,妥当な改題ではないかと思います。
                         
 出版されたのは2003年。ただし2007年に第二版が発行され,訳はそちらに基づいています。もっとも,初版と第二版の相違は,文献紹介のための脚注のアップデートのみのようですから,内容に違いがあるとは考えないでよいのでしょう。
 内容ですが,第一章がスピノザの生涯について。第二章はスピノザの著作の紹介。第三章と第四章はスピノザの思想の解説ですが,第三章がスピノザ自身の思想の解説であるとすれば,第四章はスピノザの思想の後世,現代への影響の研究であるといえます。
 フランス人がフランス語で著したものを日本語に訳したものですから,読みやすさという点ではどうしても工藤の入門書には劣ります。ただ,発行されたのが後であるということは,工藤の著書が出た時代にはまだ明らかではなかったような,新しい研究の成果が含まれています。たとえばスピノザはラビになることを周囲から期待されていたということがそれまでの定説であったのですが,実際にはそれは誤りであったとのことです。
 僕は思想の背景に関してはあまり大きな関心をもっていませんから,生涯に関しては必要なときに読み直すという程度です。多少の読みにくさはあるかもしれませんが,よくまとまった入門書であることは間違いないと思えますので,スピノザに興味があるなら,一度は読んでおくべき本であると思います。

 僕が対義語的関係にあると考えることばの,最後に示した条件が意味するところは,要するに対義語的関係には,無条件にそれが成立する場合と,何らかの条件を付した場合にのみ成立する場合とのふたつがあるということです。ここでは便宜的に,前者を絶対的な意味における対義語的関係といい,後者に関しては相対的な意味における対義語的関係といっておくことにします。
 実際にはスピノザの哲学というのは唯名論の立場にあると僕は考えています。そしてそのゆえに,スピノザの哲学は,ことばに依拠することによって考えるconcipereような哲学ではありません。そもそもスピノザは第二部定理四〇備考二で,ことばによる認識cognitioを第一種の認識cognitio primi generisと規定しています。スピノザはそこでは記号による認識といっていますが,ことばは記号のひとつなので,それに含まれます。つまりことばによる認識というのは表象imaginatio,混乱した観念idea inadaequataなのですから,ことばに依拠して考えることをスピノザが否定するのは当然です。第二部定理四一は,それが虚偽falsitasないしは誤謬errorの原因causaであるといっているからです。むしろ事物は観念ideaとして捕えられなければなりません。そしてそのように観念として把握されるのであれば,前述の関係を満たすような条件というのも,当然ながら観念として,この場合には観念というのは十全な観念idea adaequataあるいは真の観念idea veraを意味しますが,そうした観念として把握されるのですから,実際には絶対的であるか相対的であるかということは重要なことではありません。ただ,対義語という以上,それはまずことばとして表現された後に,真の観念に適用されるべきでしょうから,念のためにこのような規定というのを施したまでです。したがって,単に対義語的関係というのをことばの上でのみ理解しようとするならば,あらゆることばを対象として成立するような絶対的対義語的関係と,ある特定の種類のことばだけを対象としたような相対的対義語的関係とのふたつがあるといわなければならないでしょうが,観念というのはその観念を超越する観念を内に含むことはありませんので,たとえどちらの場合であったとしても,知性intellectusはそれを絶対的対義語的関係に類する関係として把握する筈だということになります。

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