スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

マルメラードフ&具体例

2013-06-11 18:51:22 | 歌・小説
 『罪と罰』でラスコーリニコフとソーニャを引き合わせる役目を担っているソーニャの父親のマルメラードフ。端役でも構わないような役回りですが,物語の前半では主役級に描かれています。長編の理由からそうなった面もあるのでしょうが,僕には魅力的と思える部分もあるのです。
                         
 マルメラードフはとにかくよく喋ります。酒場でくだをまくシーンは圧巻で,実際に知り合いにこんな人間がいたら,とても付き合いきれないでしょう。ただ一点だけ,彼の心情の動きがリアルに感じられ,それが僕にとっての魅力になっています。
 マルメラードフは一言で形容すればマゾヒストです。ただそれは,たとえば『地下室の手記』の主人公が,歯の痛みにも快楽があるというような,物理的な痛みを好むような意味でのマゾヒストではありません。マルメラードフには,自分が価値のない人間であると思いこみたいという欲望,そして他人にも自分がいかに無価値な人間であるかを知ってもらいたいという欲望があるように思えます。そしてそのゆえに,自分は罰を受けるべき人間である,罰を受けなければならない人間であるという考えが発生しているように読み取れます。
 しかし,本当のところ,これは逆なのではないかと僕には思えるのです。マルメラードフの心底にあるいわば原初的な欲望は,罰を受けたい,罰せられたいという欲望なのではないでしょうか。これが,僕がマルメラードフはマゾヒストであるというときの,真の意味なのです。そしてそのマゾヒスト的欲望を満たすための手段として,わざわざ自分を無価値な人間として仕立て上げ,それを周囲にも誇示しているのではないかと思えるのです。
 マルメラードフは第二部の7で轢死し,これがラスコーリニコフとソーニャの最初の出会いをもたらします。この死は,酩酊した挙句の事故死とも,自殺とも読解できるようになっています。僕はこの轢死は自殺であったと思っています。そしてそれが,最後の最後にマルメラードフが自分に与えた罰であったと思うのです。

 知性intellectusが事物を観念ideaとして把握するという場合のみに限定するのであれば,僕が対義語的関係というときの条件は,以下のようなものとなります。
 第一に,もし何らかの事物Xが観念として把握されるとき,XがAでもありBでもあるということをその知性が同時に把握するとすれば,この場合にはAとBは対義語的関係を構成することができません。
 第二に,同じようにある知性がXを観念として認識するcognoscereときに,その知性がXはAでもないしBでもないということを同時に認識できるとすれば,この場合にもAとBは対義語的関係を構成することが不可能です。
 よって,もしも知性がXなるものを十全に認識したとき,XはAであるかBであるかのどちらかであるということを十全に認識できるという場合にのみ,AとBは対義語的関係を構成することが可能であるということになります。繰り返しになりますが,あくまでもこれは知性が観念としてXをそのようなものとして認識するということだけを眼中に置いているのであって,ことばの上でそれをどのように表現することが可能であるかということは無視しています。ことばの上でそれがどのように表現されようとも,いい換えればそれが文法的に正しいのだとしても,そのことはこの規定を必ずしも崩壊させるものではないということになります。
 それでは,上述の条件に見合うような対義語的関係を構成するもの,すなわちここでいっているAとBに該当するものを,『エチカ』の中から具体的に措定してみます。この場合に最も簡単な方法は,たぶん第一部公理一の意味に注目することだと思われます。
 この意味によれば,自然Naturaのうちには実体substantiaと様態modiのどちらかしか存在することはありません。したがって知性があるものを認識するとすれば,それは実体であるか,そうでなければ様態であるかのどちらかであるということになります。実在的にいえば,第一部定理一四により,神Deusだけが実体として存在するのですから,知性が認識するのは神あるいは神の何らかの属性attributumか,そうでなければその属性が変状した様態であるかのどちらかであるということになるでしょう。これは第一部公理一の実在的意味でした。

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