暑さが一旦おさまっている。
クーラーの要らない日が少し続いており、楽だ。
窓を開けていると、隣家の住人の声が聞こえてくる。
楽しいことだ。
子どもの頃、21時過ぎに「欽ちゃんのどこまでやるの!」を視ていると、
まったく同じタイミングで隣家から笑い声が聞こえてきたものだ。
ご主人は穏やかな人で、
奥さんはとても通る声だ。
「お父さん」と呼ぶ声がいつも聞こえる。
返事の声は聞こえない。
私のいくつか年上の娘さんは結婚して北関東に住んでいる。
※
ご主人が老いた。
週に2回、デイサービスの車が送迎に来るようになった。
毎日、杖をついて外を散歩する姿が見られなくなった。
奥さんの声は相変わらず通る。
時々来る娘さんの声が以前より大きくなった。
そして二人の語調が時折、強くなる。
「そんなに怒らなくっていいじゃない。」という奥さんの言葉が聞こえる。
ご主人の不満そうな声も聞こえるようになってきた。
「今買って来るから!そんなにすぐには用意できないから、待ってて!」
そして数十秒後、
少し抑えた調子で、
「今買って来るから。待っててね、お父さん。」
と言い直す声が聞こえてくる。
2年前に特別養護老人ホームに入居するまで、老母と同居だった。
その頃には、苛立って声を荒らげる時がちょこちょこ有った。
思い出す。
きっと、私のおそろしげな声が両隣の家に聞こえてしまっているんだろうなあ、
と思っていた。
その気持ちは少し、抑止力にもなった。
しかし抑えきれるものでもなかった。
思い出す。
※
「今日は病院に行くって言ったでしょ。
お昼過ぎまで帰れないから。一人で頑張ってちょうだい。」
奥さんだって、一度倒れたことが有る。
けっして元気で介護にあたっているわけではない。
自分の体に不安を抱えながら、
家から一歩も出られない夫と同居しているのだ。
「けっして転ばないように。
転んだら終わりよ。」
夫に釘を刺す言葉には、不安が見える。
※
聞き耳を立てているわけではない。
覗き見ているわけでもない。
しかし、いざという時は役に立てるような気もするので、
少し、意識はしている。
クーラーの要らない日が少し続いており、楽だ。
窓を開けていると、隣家の住人の声が聞こえてくる。
楽しいことだ。
子どもの頃、21時過ぎに「欽ちゃんのどこまでやるの!」を視ていると、
まったく同じタイミングで隣家から笑い声が聞こえてきたものだ。
ご主人は穏やかな人で、
奥さんはとても通る声だ。
「お父さん」と呼ぶ声がいつも聞こえる。
返事の声は聞こえない。
私のいくつか年上の娘さんは結婚して北関東に住んでいる。
※
ご主人が老いた。
週に2回、デイサービスの車が送迎に来るようになった。
毎日、杖をついて外を散歩する姿が見られなくなった。
奥さんの声は相変わらず通る。
時々来る娘さんの声が以前より大きくなった。
そして二人の語調が時折、強くなる。
「そんなに怒らなくっていいじゃない。」という奥さんの言葉が聞こえる。
ご主人の不満そうな声も聞こえるようになってきた。
「今買って来るから!そんなにすぐには用意できないから、待ってて!」
そして数十秒後、
少し抑えた調子で、
「今買って来るから。待っててね、お父さん。」
と言い直す声が聞こえてくる。
2年前に特別養護老人ホームに入居するまで、老母と同居だった。
その頃には、苛立って声を荒らげる時がちょこちょこ有った。
思い出す。
きっと、私のおそろしげな声が両隣の家に聞こえてしまっているんだろうなあ、
と思っていた。
その気持ちは少し、抑止力にもなった。
しかし抑えきれるものでもなかった。
思い出す。
※
「今日は病院に行くって言ったでしょ。
お昼過ぎまで帰れないから。一人で頑張ってちょうだい。」
奥さんだって、一度倒れたことが有る。
けっして元気で介護にあたっているわけではない。
自分の体に不安を抱えながら、
家から一歩も出られない夫と同居しているのだ。
「けっして転ばないように。
転んだら終わりよ。」
夫に釘を刺す言葉には、不安が見える。
※
聞き耳を立てているわけではない。
覗き見ているわけでもない。
しかし、いざという時は役に立てるような気もするので、
少し、意識はしている。
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