山笑う
という季語が好きだ。
木は種類によって若葉の色が違う。
いろいろな樹に覆われた山は、様々な色で包まれる。
これが5月を過ぎると、どれもまあ「緑」になる。
もちろん緑にも色々有るわけだけれど、
新芽ほどには異ならない。
新芽が開いてきた今が一番、山が色んな色に染まる。
どれも柔らかい色なので、山全体がもやっと和やかになる。
※
我が家の庭に、チャンチンの木が聳えていた。
あまりに高く伸び、そして、上のほうが枯れかけてきたので、
危ないから、この冬に伐った。
木は9メートルほどの高さが有った。
https://blog.goo.ne.jp/su-san43/e/7683d65733675e20913c22d212db034e
木を伐ると、切株から細く「ひこばえ」が伸びてくる。
伐っただけで即死したりしない。
ひこばえはワッとたくさん生えてくる。
だから、新芽はひときわ美しい。
チャンチンの新芽は紅く、開くと透明感のある朱色になる。
この新芽が、食用になるという。
香りが良いらしい。
ほんとかよ。
※
台湾にはチャンチンジャンという調味料が有るらしい。
探してみると、Amazonに芝麻香椿醤が有った。
ゴマと合わせているわけだ。
また、新芽そのものを料理に使ったりもするらしい。
高級食材などと言われているようだが、
それはつまり、採れる時期が新芽の時季だけだから、ということじゃなかろうか。
※
ひこばえのおかげで、低い位置で新芽を手に取ることができる。
採って炒って食ってみんべえ。
しっかし、
紅い。
食欲が湧くかと言ったら、あまり湧かない。
切って、切り口を嗅いでみるが、なんにも香らない。
どういうことだよ。
※
これは、相当にエグいのではないか、という気がする。
苦みエグみは、毒性の証拠でもある。
たくさん食べないでおこう、と思う。
紅い。
インターネット上で見た、食材として売っているチャンチンの葉の写真では、
もうちょっと緑色っぽい。
本当に同じものだろうか。
疑念がつきまとう。
でも食べる。
調べたところ、「おひたしを胡麻和えにする」というのが見付かったが、
そんな勇気は無い。
しっかり油で炒めると良いかもしれない。
それだけでなく、茹でこぼしてからにしよう。
※
塩を入れた熱湯に、チャンチンの真っ赤な新芽を投入。
予想どおり、見る見る色が変わっていく。
緑に・・・
と言い切れない色になる。
赤と緑の中間の色である。
赤い絵の具を使った筆を洗った赤い水のところで
緑の筆を洗った経験が有りますか。
有れよ。
あの、結果、どんよりと濁った色になる、あの色。
赤と緑の中間とは、あんな色。
食欲をそそる色ではない。
ざるにあけて、水で洗う。
ゆで汁はもちろん、赤と緑の中間の
つまり筆洗いバケツの水の色になっている。
うげー。
これは相当にアクが強そうだ。
※
フライパンにたっぷりの油を熱して、
茹でたチャンチンを入れる。
豚肉と合わせようか、と思うが、
まずかった場合、豚肉も全滅すると思い、やめる。
熱が入ったら、香りが立ち始めた。
おお。なるほど!
ここで香るのか!
おお?
うーん。
嗅いだことの有るような無いような、無いような香りである。
でもまあ、まずくはなさそうな。
中華だしの粉末をつまんで入れる。
うまみが有れば食えるかもしれない。
冷蔵庫を開けたら、卵が一個残っていたので、
合わせて炒る。
卵が瞬く間に、あの色に汚れていく。
ああ。
もう一回茹でても良かったかもしれない。
※
できあがり。
そそらない色である。
そして独特の香りがしている。
おそるおそる食べてみる。
うーん。
これは、
何かで嗅いだことの有る香りのようでもあるし、
初めてのような気もするが、
どこか記憶をくすぐられるような、
うーん。
私は20年くらい前の一時期、
新芽を見ればちぎり取って食べてみる、ということをしていた。
意外と食えるものが多かった。
うまそうに見えてもひどくエグいものも有った。
この香りは、あの頃に嗅いだことが有るのかもしれない。
※
結論。
たぶん二度と調理しない。
しばらく口の中に香りの記憶が残って、参った。
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