犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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E.M.フォースター『モーリス』再読

2015年02月08日 | よみものみもの
下高井戸シネマに映画を観に行ったのは、二十歳頃だったか。
映画の公開は1987年だったから、わりにすぐ観たのか。
小さな映画館の中は、ヒュー・グラント目当てらしい
おネエちゃんで埋まっていた。
「オコゲ映画か?」と思ったものだ。

物語は、恋に人生を賭けた二人、という体で、
ハッピーエンドになっている。
しかし、二十歳頃の私は、映画が終わって、気が沈んだ。
当時の英国で、身分も違う二人が、どうやって生きていけると言うのか。
これで「ステキ♪良かった」と思えるのはどこかネジが外れて
いやしないか。

原作を読んでみたが、同じことだった。
感想は変わらず、『モーリス』は重苦しい気分を残す作品として
私の記憶に刻まれた。

退屈な雨の日、映画でも観ようかとyou tubeを眺めていたら、
『モーリス』があったので、観てみた。
やはり、物語の終わり方に私は希望は感じなかった。
そればかりか、同性愛を苦にし、
「病気だったら治してください」と医師にすがる様子には
十代二十代の自分と重なるものを見て、
やはりやりきれない気持ちになってしまった。
自分に引きつけて作品を読むなんて、しない癖が付いているはずなのに。

原作を読んでみた。
すると、今度は違った。
小説の中で、モーリスは「頭の回転が悪い」人物であると、
気の毒なくらいに繰り返し表現されている。
おつむは鈍いが、気持ちはまっすぐな好青年。
だったら、このような結末も可能なのかもしれない。
と思わせるものだった。

原作が書かれたのは1913~14年のことだと言う。
100年前のイギリスだ。
だが、出版されたのは1971年。そして16年後に映画化。

1967年まで、イングランドではソドミー法によって同性愛は禁じられていた。
(スコットランドでは1980年、北アイルランドでは1982年まで。)
法改正に関するウルフェンデン勧告が1957年のこと。
男性二人が愛し合うハッピーエンドであるこの作品は、
社会が動き、法が変わるまで発刊できなかった。

私が実行委員として参加した、日本で最初のゲイ・レズビアン・パレードは
1994年。
私が映画を観たのはその数年前。
日本でも、社会は変化しつつあるものの、まだまだ同性愛者にとって
希望があるとは言い難い状況だった。

そのことが、私が映画を観た印象に大きく影響していると思う。
作中のイギリスでモーリスが今後一体どうやって生きていくのか、
ということではなく、実は、
現実の日本で自分が今後一体どうやって生きていくのか、
ということが、重苦しい気分の原因だったのだろう。

と、今は思う。
社会も変化したし、自分も自分の生き方を探ってきたし、
二十歳頃よりも思索的ではなくなっている。
「あら、オバちゃん、モーリスのこと、応援するわヨッ」てなところ。
雑過ぎる?

本の最後に、1960年の作者のあとがきが付されている。
フォースターは、あとがきをこのように締めている。
これが当事者の実感というものだろう。


同性愛について

 これまで言及しなかった語について最後に記しておきたい。
『モーリス』が書かれて以来、イギリスの一般大衆の態度に
一つの変化が生じた。かつては無知と恐怖であったものが、
今日では熟知と軽蔑に変わったのである。エドワード・カーペンターは
このような方向に社会が変わることをのぞんだのではなかった。
彼はある感情が寛大さをもって認識されるようになることをのぞみ、
原始のころからあった人間の感情にごく普通の場所がまた
与えられるようになることをのぞんだのである。そして私は
彼ほどの楽天主義者ではないものの、知識は理解につながるだろう
と考えた。カーペンターや私にわかっていなかったのは、
大衆は同性愛そのものを嫌悪するのではなく、それについて
考えることを厭うのだという点であった。気がつかないうちに
するりと社会に入り込むなら、あるいは一晩のうちに補則として
細字で書き加えられる法規となるなら、わざわざ抗議を
申し込む者はほとんどいないにちがいない。不運なことに
合法化されるためには議会の承認がなくてはならぬ。
そのためには議員諸君は考えることを余儀なくされる。あるいは
考えるふりをすることを余儀なくされる。そのようなわけで
ウルフェンデン勧告は永久に拒否されつづけるであろうし、
警察も告発を続行するであろう。判事席のクライブは
被告席のアレクに有罪を宣告しつづけるにちがいない。
モーリスは刑を免れるかもしれない。

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