旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

巴里マカロンの謎

2025-03-09 17:22:30 | 図書館はどこですか



勢いでそのまま続けてお借りしたのが「巴里(パリ)マカロンの謎/米澤穂信著」
です。新刊書でない場合借りる際のメリットは、待ち時間がないことですかね。

四つの短編からなる巴里~は、新キャラクター・中学生の古城秋桜(こぎ こすもす
=小佐内さんの妹分的存在、秋桜には「ゆきちゃん先輩」と呼ばれ慕われている)
を加えた連作的な三編と、小鳩くんの友人で本編でもしばしば登場し活躍する堂島
健吾が所属する新聞部での事件とで構成されます。新聞部を舞台にした事件『伯林
(ベルリン)あげぱんの謎』は、「春期限定いちごタルト事件」の中のひとつの
エピソードとして組み込まれアニメ化されすでに放映済みで、読み進めるうちに
トリッキーな仕掛けなどを思い出しました。

『小市民シリーズ』の番外編的に用意された本作は、どのような経緯で執筆される
ことになったのかは存じ上げません。出版順として、「秋期限定栗きんとん事件」
と「冬期限定ボンボンショコラ事件」の間に位置付けられ、私の当てずっぽうな
推測では、秋期~では主役コンビが解消、別々の道を歩み始めていて、ふたりが
絡むシーンが少なく、さらに、もしも最終章の構想がこの時点ですでに出来上がり
つつあったのなら、冬期~では小鳩くんが入院し、やはりふたりが共に行動する
機会が極端に少なくて、それを補う意味での番外編の登場でなかったかと思います。
スイーツ好きの小佐内さんに引っ張り回され、甘党のお店での会合が互恵関係を
結んでいるふたりの常日頃で、それを契機に事件に巻き込まれるのがパターンなら、
その点むしろ巴里~が本流とも言え、秋期~と冬期~で不足がちになってしまった
場面を補填したように見えてきます。

時系列的に巴里~は、春期~と「夏期限定トロピカルパフェ事件」の間の位置付け
なので、これから読もうと思われている方なら、その順番で読むのもひとつの手
でしょう。ただし、巴里~でのまずまず平凡な日常を堪能した後、夏期~で一気に
暗転することになるので、その落差への覚悟は必要かもしれませんよ。小市民
シリーズは、おいしそうなスイーツがわんさか出てきて、米澤さんの軽妙洒脱な
語り口と合わせ、一見ほんわかしてそうなはずなのに、実際にはかなり辛辣な
お話がさりげなくスパイスされているがミソで、そんな「甘い砂糖菓子」ばかりな
世界が描かれているわけではないのです。無難な読み順としては、執筆順に従い、
秋期~のあとに巴里~を読まれるのもいいでしょう。

でも一番は、たまたま今回私がそうしたように、全シリーズの最後に巴里~を
持ってくることをお勧めします。『花府(フィレンツェ)シュークリームの謎』
で秋桜の冤罪を晴らし窮地を救ったふたり、小佐内さんには一流パティシエの
手によるお礼のスイーツがあふれんばかりに用意されました。「ええと、ねえ、
わたし、死ぬの?」 目を潤ませ、舞い上がり、素っ頓狂なセリフを吐く
小佐内さんの幸せそうな様子はこのシリーズ最高潮のハッピーエンド、これで
物語の幕引きとするのが、上質のお菓子をいただいたあとのような、後味の
いい締めくくりだと思うのです。


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