第3部 その他
第3 その他
4 発行可能株式総数に関する規律
http://www.moj.go.jp/content/000100819.pdf
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会社法
(株式の超過発行の罪)
第966条 次に掲げる者が、株式会社が発行することができる株式の総数を超えて株式を発行したときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時執行役
三 取締役、執行役又は清算株式会社の清算人
四 民事保全法第56条 に規定する仮処分命令により選任された取締役、執行役又は清算株式会社の清算人の職務を代行する者
五 第346条第2項(第479条第4項において準用する場合を含む。)又は第403条第3項において準用する第401条第3項の規定により選任された一時取締役、執行役又は清算株式会社の清算人の職務を行うべき者
いわゆる授権資本制度とは,募集株式の発行を随時,機動的に行う必要性と,取締役会に無制限な発行権限を付与するのは適当でないという要請から,一定の枠内で取締役会に募集株式の発行の権限を付与するものである。
したがって,会社法第966条は,通常,公開会社において取締役会で募集事項を決定する場面を想定している。
しかし,公開会社でない株式会社において株主総会で募集事項を決定する場合であっても,取締役等が議案を提出したような場合には,本罪は成立し得る(葉玉匡美・「論点体系 会社法6」(第一法規)502頁)。
ところで,超過発行がされた場合,募集株式の発行の無効事由であると解されている。したがって,6か月の提訴期間を経過しない限り,これによる変更の登記をすることはできない(会社法第828条第1項第2号,商業登記法第25条)。逆に言えば,6か月を経過すると,発行可能株式総数を超過する発行済株式の総数の登記ができちゃうわけである。
公開会社で超過発行がされた後に,株主総会において,発行済株式の総数の4倍を超えない範囲内で発行可能株式の総数を増加する定款の変更の決議がされた場合には,民事上の瑕疵が治癒され,6か月の提訴期間を経過しなくても,募集株式の発行による変更の登記及び発行可能株式の総数の変更の登記は,いずれも受理されているようである(松井信憲「商業登記ハンドブック(第2版)」(商事法務)235頁)。
しかし,枠外発行を条件として,発行可能株式総数を増加する定款の変更の決議がされた場合,無効事由を条件とする定款の変更の決議には瑕疵があり,上記のように枠外発行の瑕疵を治癒することができず,登記をすることもできない(松井・前掲)。超過発行がされた後に改めて株主総会の決議を行わない限り,6か月の提訴期間経過後に,募集株式の発行による変更の登記をすることができるのみである。
さて,取締役会設置会社においては,株主総会は,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる(会社法第295条第2項)。会社法に違反する内容の決議をすることはもちろんできないものである。
しかし,授権資本制度は,取締役会の専断的な募集株式の発行によって既存の株主の持株比率が希釈化されてしまうことを防止することが本来の目的であるから,枠外発行となる場合であっても,株主が許容しているのであれば,これを否定する理由はないはずである。超過発行後の追認で瑕疵が治癒されるのに,枠外発行が効力を生ずる前の定款変更では瑕疵が治癒されないというのも,不合理な感がある。枠外発行を条件として,発行可能株式総数を増加する定款の変更の決議がされた場合に,4倍規制の枠内となるのであれば,是認してもよいのではないだろうか。
この点,吸収合併における事案であるが,吸収合併に際しての発行可能株式総数を超えた株式の発行及び当該枠外発行の数を前提とする発行可能株式総数の増加に係る条件付定款変更の可否について,法務省民事局商事課長通知(平成20年9月30日付法務省民商第2665号)により「吸収合併に際し,公開会社である吸収合併存続会社が,吸収合併消滅会社の株主に対して合併対価として当該吸収合併存続会社の株式を交付するために,当該株式をその発行可能株式総数を超えて発行することとするとともに,あらかじめ当該吸収合併の効力発生前に当該吸収合併存続会社の株主総会において当該効力発生を停止条件としてその枠外発行の数を前提とする当該発行可能株式総数の増加に係る定款の変更の決議をすることは可能である」として許容されており,同通知の射程を募集株式の発行の場合にも拡げることは可能であると考える。