第1部 企業統治の在り方
第3 資金調達の場面における企業統治の在り方
1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等
(1)公開会社における募集株式の割当て等の特則
④ 総株主(④の株主総会において議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の議決権を有する株主が①による通知の日又は②の公告の日(③の場合にあっては,法務省令で定める日)から2週間以内に特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは,当該公開会社は,①の期日の前日までに,株主総会の決議によって,当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第205条の契約の承認を受けなければならないものとする。ただし,当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,この限りでないものとする。
http://www.moj.go.jp/content/000100819.pdf
※ 7頁以下
何やらわかりづらいが,端的に言えば,支配株主の異動を伴う第三者割当てによる募集株式の発行等について,一定数の議決権を有する株主が一定期間内に当該募集株式の発行等に反対する旨を通知した場合には,株主総会の決議(普通決議)を要するものとするものである。
普通決議ではあるが,⑤により,定足数を排除できない(3分の1まで軽減することはできる。)ものとされている。取締役等の選任の決議要件と同じである。
「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の存立を維持するため緊急の必要があるときは,この限りでない」とされたことから,緊急の必要性があれば,株主の意向にかかわらず,取締役会限りで募集株式の発行等ができてしまう。「緊急の必要性」の有無が争点となるが,フリーパスになりそうである。
①から③の通知又は公告については,会社法第201条第3項から第5項までの規律と同様であるが,この特則の適用があるのは,おそらく上場企業であろうから,振替法についても手当てされることになる。
cf.
平成22年5月11日付「反対株主の買取請求のための「公告」等」
平成20年12月24日付「株券電子化後の募集株式の発行等における「公告」について」
登記実務としては,この特則の適用がある場合の株主総会議事録については,有利発行のために株主総会の特別決議を要する場合の株主総会議事録は添付を要しない(取締役会の議事録が添付されていれば足りる)というかつての先例(昭和30年6月25日民甲第1333号)に倣い,添付を要しないものとされるであろうか。
cf. 松井信憲「商業登記ハンドブック(第2版)」(商事法務)289頁
なお,公開会社は,払込期日又は払込期間の初日の2週間前までに,株主に対し,特定引受人について通知又は公告をしなければならないものとされ,一定数の議決権を有する反対株主が通知の日又は公告の日から2週間以内に反対する旨の通知をした場合に株主総会の決議が必要となるが,払込期日等の延期をしなければならない場合がほとんどであろう。
払込期日の延期については,取締役会の決議と特定引受人の同意が必要となり,登記実務においては,これらを証する書面を添付しなければならないこととなる。