下請けいじめは、下請代金支払遅延等防止法、通称下請法で禁止されている。
下請けに限らず、商売上優位な地位にある者がその地位を振りかざして不利な条件を飲ませることは、「優越的地位の濫用」として独占禁止法で禁止されている。
下請法は、優越的地位の濫用禁止の下請けバージョンだと思ってよい。
下請けとは?
例えばアニヲタ諸氏がアニメショップに行き、頬ずりしたいアニメショップ限定フィギュアをレジに持って行ってお金を払って持ち帰る買い物。
これも、「売買」という立派な契約だ。
下請け企業は技術こそあるが社員数も資本金もわずかな中小であることが通例であり、販路開拓や宣伝には凄まじい投資をしなければならない。
そんな投資はリスクが大きすぎるし、銀行だってそんなに金は貸してくれないだろう。
しかもそれで肝心の制作がおざなりになっては元も子もない。
それならば、既に大きな販路を持っている大企業が親事業者となり、その販路を使って売ってくれるというのは下請けにとって決して悪い取引ではない。
下請けを多数抱え、あちこちから買い集めて商品の層を厚くすることで、お客さんを誘引できる。お客さんは特定の商品目当てにやってくるとは限らず、「何かいいものないかな?」とふらっとやってきたり、特定の商品目当てでやってきても「あ、これも出てるならこれも買おう」とやってくることもあるから、層を厚くすることは重要だ。
それなら、下請けにお願いすることで質の良い製品を確保しつつ販路の開拓などに専念することが出来るので、親事業者としても下請けにお願いするというのも悪い取引ではない。
中小企業向け
Q&A集
(下請110番)
本中小企業向けQ&A集(下請110番)使用にあたっての注意事項
1.本Q&A集は、中小企業の方々が取引を行う上で直面するであろうトラブルや疑問
点をいくつか取りあげ、基本的な考え方や留意点を示すことにより、解決への一助と
なることを目的としています。皆様にわかりやすく理解していただくために、法律の
細かい解説は一部省略しておりますので、ご了承ください。
2.実際の紛争は少し事情が異なるだけで結論がまったく異なってしまう場合もありま
す。実際の紛争は、このQ&Aで取り上げた単純なものでなく、当事者や個別事情が
絡み合い複雑な様相を呈していることが多いと思います。そのため、実際に行動する
場合は、このQ&Aを参考にしつつ、最寄りの下請かけこみ寺や法律の専門家に御相
談するようにして下さい。
なお、下請かけこみ寺で受けた相談内容は、親事業者等に情報が漏洩しないよう
厳重に注意しておりますが、中小企業庁又は最寄りの経済産業局に相談していただい
ても結構です。
2.また、中小企業庁、経済産業局及び下請かけこみ寺では、皆様方の、債権回収代行
はできませんが、債権回収のための助言はさせていただきますので、遠慮無く相談し
てください。
下請かけこみ寺では、無料弁護士相談を紹介、下請代金法の問題であれば、必要
に応じて経済産業局中小企業課又は公正取引委員会に連絡し、建設業法に係わる問題
であれば、地方整備局、県の建築課等の相談窓口を紹介しております。
3.また、下請かけこみ寺本部では、中小企業の取引における紛争について、裁判によ
らずに調停によって当事者が話し合いにより迅速な解決を図るADR手続も無料で
実施しています。
4.本Q&A集では、下請事業者をA社、親事業者をB社、その他の事業者をC社・D
社と表現しています。
省略用語
1. 下請代金支払遅延等防止法・・・・下請代金法
2. 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律・・・独禁法
3. 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方
下請代金法第1条は、「親事業者の下請事業者に対する取引を公正なら
しめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もって国民経済の健全な発
展に寄与することを目的とする。」と定めています。
下請代金法においては、親事業者と下請事業者との関係は、最初から親
事業者が優越した立場にあるという特殊な関係であることを踏まえ、親事
業者に対してする4つの義務(書面の交付等)と11の禁止事項(支払遅
延、減額、買いたたき等)を定めています。
下請代金法により規制を受けるのは親事業者ですが、例えば、商慣行と
いう名の下に長年にわたり継続してきた取引方法が、実は、下請代金法に
違反していた、といった事例もあることから、下請事業者も下請代金法の
仕組みを十分理解した上で、親事業者と取引してください。
従来から下請事業者が取引先の親事業者の下請代金法違反を発見して
も、それを直接親事業者に指摘すれば、取引において不利益を受ける場合
があり、下請事業者は中小企業庁や公取委に対してなかなか申告すること
ができず、取り締りが困難であるという実情があるようです。
だからと言って、下請代金法違反を放置していては、ますます下請代金
法違反が増加してしまいます。そこで、下請事業者も、親事業者は、本来
どのような義務を負っているのか、どのような行為を行えば、下請代金法
に違反するかしっかり監視を行う必要があります。
そのために、下請事業者も下請代金法を理解する必要があります。
和歌山)下請けいじめ許さぬ 県・国連携 不当取引調査
朝日新聞
県内の下請け企業を苦しめるブラックな取引慣行は許さない――。県は経済産業省と連携し、親企業による買いたたきなど下請けいじめの是正に乗り出した。
県職員が下請け企業を訪問し、不当な取引の内情を調べる。7月には、国と連携協定を締結。悪質な実態が確認された場合、国が下請法に基づいて親企業に行政指導する。
県内の中小企業数は3万6270社に対し、大企業は26社(2014年)。人口1万人あたりの中小企業数は全国有数の多さで、逆に大企業の数は最低水準だ。大多数を占める中小企業の経営環境の改善を図ることで、県経済全体の浮揚につなげる狙いだ。
県によると、近年、大企業の経常利益は全国的に拡大傾向にあるが、製造関係の中小企業の利益は低迷。県商工観光労働総務課は「(親企業による)原価低減の不合理な要請など不当な取引慣行が一因」とみている。
人件費や材料費などコスト上昇分を価格転嫁できず、利益を出しづらい下請け企業が多いという。県の今年1月の調査では、県内の製造業者237社中、「価格転嫁できていない」と回答したのは159社で全体の67%。加工賃の値上げに親企業が応じず、廃業に追い込まれた企業もあるという。
なぜ下請けいじめは許されないの?
ところが、現実にはそうならず、親事業者win-下請けlose の関係になってしまう場合が圧倒的に多いのである。
中小の下請けにとっては、親事業者との取引を失うことは即座に収入源を失い倒産一直線になる死活問題である。
そうならないよう取引先を多数確保しておくことは理想だが、似たような中小も多数いる以上、そんな理想を実現できる下請けには限りがある。一社の取引先も確保できず消えていく中小だって珍しくないのだから。
親事業者が倒産した結果、その親事業者からの仕事で成り立っていた下請けが連鎖倒産することも多い。
確かに重要な商品を作っていた下請けを失うのは痛いが、下請けがいなくても代わりの下請けはたくさんいる場合が多い。
また、親事業者は多方面に事業を展開している場合も多い。最悪代わりの下請けが見つからず事業が立ち行かなくなったとしても、他の事業に力を入れれば親事業者はびくともしない。
アニメショップの例ならば、限定フィギュアを売れないのは確かに痛いが、書籍・CD・DVD・その他関連グッズ類を売ればアニメショップが即倒産するというわけではないだろう。
交渉は弱みのある方が負け、強みのある方が勝つ。勝敗の99%は契約交渉以前に決まっている。
これが古今東西交渉における真理である。
他方で、「ここを切られたら企業の存続も自分の生活も成り立たない…次の仕入れもできない…」と言う下請けの弱み。
これはあまりにも下請けにとって巨大なハンデであり、下請けと親事業者の交渉で下請けに勝ち目はほとんどないと言ってもよい。
だが、そんな下請けがそうそうある訳がない。例え1位でなくても、2位に変えたところで消費者にその差はほとんど分からない。
「1位でもダメなんです」
「ぶっちぎり1位でなければダメなんです」
だが、そんな下請けが作る製品が日本を支え、労働者の7割近い中小企業における労働者の生活を守っている。
彼らが路頭に迷えば、彼らの生活の面倒は社会保障で国が見なければならず、社会的なコストが大幅に増大してしまうことになる。
親事業者は他の事業で儲けていれば困らないが、残された業界はズタボロで消費者は欲しい商品が手に入らない。ぼったくり販売を始める者が現れても、皆ぼったくり商品を買うしかなくなり、ダンピングと同じ事態が発生することになる。
大企業有利になるのはただの結果でしかない。
なので、下請けをいじめるような取引をしてはならず、下請けいじめとして法律で禁止されているのだ。
下請けいじめとはどういう場合か?
下請けいじめとして下請法で禁止されている行為は、あくまでも取引で下請け不利にする事が想定されている。
また、下請法だけでは完全には分かりにくいため、公正取引委員会がさらに細かい通達を出し、「これは下請法のこれに当たるから、下請法違反として扱うよ」ということを説明している。
そのため、下請けとして保護されるのは資本金の額が少ない中小に限られ、業種もサービス業・製造業・修理業・クリエイターに限られる。
具体的な中身は細かく分けられているので、各人で必要に応じて調べて頂くことにしよう。*4
後になって契約の中身はこうだった、いやこうだったの争いになれば結局下請けが泣きを見てしまう。そのため、まずはしっかりと書類を作らせる。
そして、必要な書類は後で公正取引委員会が入ったときにきっちり提出させる。
これも守れず、仮に書類がないという結果になるならば、「それは書類を作らなかった親事業者が悪い」ということにしているのだ。
公正取引委員会が定めている通達の内容はかなり細かいが、全部書いたら大変なことになるので主なものにする。大体が主なものの応用だし。
1.返品する(もちろん代金も払わない)
下「え?何で引き取るんですか?ちゃんと作ったんですが。」
親「いやーあのアニメ終わっちゃってさ。そうしたら人気なくなっちゃったんだわ。」
下「あの、代金は・・・」
親「何で受け取らないのに代金払わなきゃいけないの。」
下「そんな!!代金払ってもらわないとうちの社員たちの給料が・・・限定フィギュアだから他所に売れないし・・・」
親「あっそう。ならいいよ、おたくとはもう取引しないから。」
下「そんなことされたら・・・分かりました、返品に応じます・・・」
最初から「売れ残ったら買い戻します」と契約に盛り込むのもダメ。
どうしても返品したいなら、きちんと代金を払うのはもちろんのこと、下請けが保管するための倉庫代までしっかり払う必要があるのである。
結果的に売れない商品を注文してしまった責任は親事業者にある。傷物を納品した訳でもないのに、それを下請けに押しつけてはならないのだ。
確かに裁判をすれば下請けが勝つだろうが、一時的に代金がもらえても、取り引きを打ち切られると損失がその何倍にもなってしまうのが下請けいじめの恐ろしい所なのだ。
裁判は弁護士の費用・裁判費用などもそれなりにかかる上に、何よりも結果が出るまで時間もかかる。
結果が出るまではうかつに今までの事業が行えなくなったり、その結果赤字運営になり続けたりもする。
そのため、業務妨害を意図して裁判を起こす(※無論馬鹿正直にそんなことを述べるメリットは皆無なので表向きは異なる理由)or起こしても構わないと仕向ける例は枚挙に暇がなく、時には裁判を起こす費用すら工面できないこともある。
2.通常の仕事の対価と比べてあまりにも安い代金で買い叩く。
下「え?ほかの業者なら同じ仕事で150万円はもらってますよ。うちの製品は質だって劣ってないはずです。」
親「社会貢献が求められる時代なんだよ!!うちはこのフィギュアをチャリティーで使うんだ。お前たち下請けも社会貢献すること覚えろよ!!0円じゃないだけありがたく思えよ!!」
下「そんな!!この金額は酷すぎる!!」
親「あっそう。ならいいよ、おたくとはもう取引しないから。」
下「そんなことされたら・・・分かりました、その金額でいいです・・・」
また、書類を作らず金額をあやふやにしておくこともこの手の下請けいじめの温床となるので、書類作成が義務付けられているのである。
ちなみに、企業の社会貢献を振りかざして下請けのクリエイターを買い叩こうとした担当者は実在するらしいので検索してみよう。
3.一旦発注するが、製品を作るための労力を払ったのに突然発注内容を変更。もちろん追加料金なし。
下「え?もう黒スク水仕様で全部作っちゃいましたよ。今から白スク水にしようとすれば、作り直す費用かかります。」
親「こっちは注文者なんだよ?仕様変更位応じてよ。書類にだって具体的にスク水の色まで書いてないでしょ。」
下「こっちは黒スク水前提であの代金を設定したんですよ。仕入れにも追加作業にもコストかかります。追加費用を出してくれるなら受けますが、なしでは受けられません。」
親「あっそう。ならいいよ、おたくとはもう取引しないから。」
下「そんなことされたら・・・分かりました、タダで仕様変更します・・・。」
4.「ウチの仕事をやるならウチの指定した商品を買った上でやれ」ということで、商品を買わせる。
下「え?うちはフィギュア制作会社ですよ。カップ麺なんて買っても使い道ないですよ。」
親「君の従業員に食べてもらえばいいじゃない。」
下「うちの従業員はみんな愛妻弁当もってきてますよ。」
親「カップラーメン買わないリア充との取引は打ち切ってやるぅぅぅぅ!!」
下「そんなことされたら・・・分かりました、買います、買いますから・・・」
発注したその製品を作るのに親事業者の持っているものを使わなければならないケース(タイアップキャンペーンのロゴなど)などは買わせてもいいということになっているが、その場合も下請けに損をさせないよう注意しなければならない。
また、商品を買えという形ではなくうちの仕事を手伝え、と言うタイプもあるが、これも下請けいじめとされる。
5.下請けいじめの告発をしたら報復する
下「ナンノコトデスカー」
親「とぼけるな。君の会社との取引条件が問題にされて公正取引委員会にうちは下請けいじめをする企業だと公表されてしまった。うちに損害を与えるような会社との取引は打ち切ってやる!!」
下「そんなぁ・・・これじゃ通報しない方がまだマシだった・・・」
通報への報復は絶対に許されないのだ。
ちなみに通報があったとしても公正取引委員会はバレないように調査をすることになっている。
下請けが同意してないなら契約は成立していないし、同意していないのに契約書に判をつかせたり金を払わせたりするのは下請けいじめよりさらに重大な詐欺や恐喝である。
下請けが立場が弱い故に同意せざるを得ない場合が多いから下請けいじめが取り締まられるのであって、同意していたら問題ない、というのでは下請けいじめを取り締まる意味がないからだ。
下請けいじめをすると・・・
親事業者もちょっと勇み足をしてしまったくらいならば、公正取引委員会に「それは間違いですよ」と叱られてその上で態度を改めてもらうのが一番平和である。
下請けも、そういった態度を改めてくれさえすれば、このまま親事業者とのお付き合いを続けたい場合も少なくないはずだ。
公正取引委員会も、よほど酷くなければまずは指導をした上で、その企業が自主的に直すのに期待する。
さらに、2004年以降は下請けいじめで勧告された企業は公正取引委員会から「この企業は下請けいじめをしました!!」公表することが可能になった。
公表することで、別の下請けは下請けいじめをするような企業との取引を控え、身を守ることが出来るのである。
公正取引委員会としては、通報があった場合も抜き打ち検査に偽装して通報があったことを誤魔化し、通報した中小を守ることも可能というわけである。
しかし・・・
多くの件は公正取引委員会の抜き打ち調査で発覚している。下請けが泣き寝入りして公正取引委員会に届いていないケースも相当多いものと考えられ、6302件も実際には氷山の一角の可能性が高い。*6
しかも、中には一度公正取引委員会に下請けいじめを公表されながら、たった2年で性懲りもなく似たような下請けいじめをやった大企業さえある。
交渉を許さないのでは、下請けがどんな質の悪い物を作っても常に同じ価格が保障されることになり、下請けにはやさしいが代わりに質が落ちてしまったり、下請けの開発意欲を阻害することもあり得る。
下請けがいい親事業者を探すためによい製品を開発し、ウチの方がいいですよ、と親事業者に売り込むのが本来の姿だ。
下請けいじめと聞いて、セクハラやパワハラが頭に浮かんでいたのではないだろうか?
下請けいじめは、された方もそんなものと思いやすいし、している側も悪いことをしていると思わないことが多い。
親事業者の担当者が仕事熱心であれば、何とかして仕入れを安くしたり高く売ったりと成果を上げようと考えるのは当たり前。
そこで下請法を知らなければ、下請けいじめの何が悪いのか分からないことすらしばしばなのだ。
実情を知らない社長が数字を見てよく頑張ったと担当者を誉め、後になって担当者の下請けいじめが発覚して社長が愕然とするということもある。
2.下請けに出した要求はすぐに取下げ、既に飲ませてしまった要求についてはしっかり金銭を払うなどして償う。もちろん取引打ち切りなんて論外。
3.繰り返さない。
4.担当者を懲戒処分・配置転換したり、他の担当者に対しても研修を行うなど、再発防止策を取る。
5.公正取引委員会の調査にも全面的に協力する。
親事業者としても、社内で担当者を叱ったりするだけでなく、公正取引委員会に出てきてもらうことで、「下請けいじめは社長に叱られるどころではなく、処罰されるような事なのだ」と周知し、社内を引き締める事につながるのだ。下請けいじめもそれによってなくなるのであれば、一旦下請けいじめをしてしまった後としては三方丸く収まる。