石田雅彦
6/6(土) 17:59
暑い季節になってきて、熱中症対策でエアコンをつけるケースが増えてきた。新型コロナ感染症の感染防止のためには、換気をよくするように推奨されているがエアコン環境ではどうなのだろうか(※この記事は2020/06/06時点の情報に基づいて書いています)。
新型コロナウイルスに季節性はあるか
新型コロナ感染症対策では、多くの人が「密閉・密集・密接」のいわゆる「3密」を回避すべきとされている。しかし、この3つの1つでも感染のリスクがあるので、室内ではできるだけ空気中のウイルスの濃度を下げるための定期的な換気も重要だ。
外気温が高くなってくると寒い時期に比べて窓を開けての換気はしやすくなる一方、暑くなり過ぎれば逆に窓を開けると外の熱気や湿気が入ってきて室内環境は不快になる。
新型コロナ感染症は、北半球の寒い季節に感染が広がった。気温が下がって乾燥すると免疫力が弱くなり、喉などの粘膜のウイルスや細菌の除去機能も下がる(※1)。
では、新型コロナウイルスは暑くなると感染力が弱まるのだろうか。これまでの研究によれば、気温と感染者の数の関係については様々な結果が出ている。
復旦大学の別の研究グループが、中国30省の2020年2月11日までの気温・湿度と1日ごとの症例数の関係を分析した研究によれば、気温や湿度が上昇するにつれて感染者が減少することがわかったという(※2)。武漢を含む湖北省で、特に気温・湿度の上昇と新型コロナ感染症の症例数に逆相関、つまり気温や湿度が上がると感染者数が減少することが観察された。
例えば、湖北省の場合、湿度が67%から85.5%の時に摂氏1度上がるごとに1日あたりの感染者が36%から57%減った。また、摂氏5.04度から8.2度の時に湿度が1%上がるごとに1日あたりの感染者が1%から22%減ったという。
中国だけでなく地球規模で新型コロナ感染症の感染と気温・湿度の関係では、平均気温が高い国では感染者が少なく、降水量の多い国では感染者が多いが死亡率との関係はないという研究がある(※3)。また、同様の研究では、世界166カ国の毎日の感染者数と死亡者データと気温・湿度の関係を調べたところ、気温・湿度が上がれば感染者と死亡者が減ったという(※4)。
この結果に反する研究も多く油断できないが、どうやら新型コロナウイルスは暖かくなると勢いが弱まる可能性があるようだ。だからといって、手指衛生やマスクの着用、ソーシャルディスタンスなどを怠るべきではないし(※5)、いわゆる「3密」の状態を作るのもかなり危険だ(※6)。
エアロゾル感染とエアコン
ところで、インフルエンザウイルス同様、新型コロナウイルスは主に接触感染と飛沫感染によって感染し、空気感染しないとされている。今のところ、ウイルス自体が空気中を漂って遠くへ移動したり、超微粒子物質に付着して空気中へ拡散することはないと考えられている。
だが、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスと同様、いわゆるエアロゾル感染という飛沫感染の一種によって感染するケースがあるとされ、会話する感染者のエアロゾル化した呼気中や唾の飛沫によって感染する危険性がある(※7)。他者に感染させないためのマスク着用が推奨されている理由だが、エアロゾル中の新型コロナウイルスは少なくとも3時間は残存するようだ(※8)。
もちろん、どれだけの量の新型コロナウイルス入りエアロゾルを吸い込めば感染するかなどわからない。だが、少なくとも感染者がいる環境の換気扇やエアダクトに付着したウイルスがしばらく残存するようだし(※9)、感染者と一緒に長時間いるのも呼気中のエアロゾルの存在を考えれば危険だろう(※10)。
さらに言えば、エアロゾル感染やより空気感染に近い形での空気伝達感染経路を疑い、エアコンや空調システムを介しての感染拡大を警告する研究グループもいる(※11)。新型コロナウイルスについてはまだ未解明な部分も多く、空気感染するかどうかでも議論が続いているというわけだが、いわゆる空間除菌にエビデンスはない(※12)。
エアコンでせっかく冷やした室内を換気によって熱したくないという気持ちはわかるが、いわゆる「3密」でないにせよ、特に不特定多数が集まる場所は換気したほうが無難だろう。
自動車のエアコンは外気を取り込むことも可能だが、一般家庭で使われているほとんどのエアコンは、室内の空気を循環させるだけで外気を取り入れて換気することはできない。オフィスビルや飲食店が入っている複合ビルでは外気を取り入れる空調システムの場合があるが、古い建造物は一般家庭と同じ外気を取り入れることができないエアコンが多い(※13)。
一般家庭ではでは定期的に窓を開けて室内の空気を入れ換えるべきだし、外気を取り入れる空調システムのあるオフィスビルや複合ビルでもトイレや更衣室などで完全に換気しきれない場合もありそうだ。さらに、屋内の喫煙所から漏れ出るタバコ煙のリスクが加われば、凶悪なことおびただしい。
やはり換気が大事だが
また、ウイルスや細菌がトロイの木馬のように空調システムに潜み、暖かい季節をやり過ごす危険性を指摘する研究グループもいる(※14)。この研究グループは、夏季には暑くて日光に当たらなくなるため、ビタミンDとメラトニンが少なくなって免疫力が低くなりがちであり、エアコンで涼しくなった室内に人が集まる機会も増えることで感染が広がるかもしれないという。
ただ、春から夏にかけて紫外線が強くなるが、殺菌作用が確認されている波長200~280nmの紫外線Cが含まれない太陽光線にそれほど強い殺菌効果はない。これまでの研究で明らかなように、新型コロナウイルスに対しても太陽光線による有効性は確認されていない(※15)。
エアコンによる室内の空気の環流と感染者によるウイルスの感染は、換気して新鮮な外気を取り入れることによって防ぐことができる(※16)。だが、夏季の熱波では、世界各地で熱中症などにより多くの犠牲者が出ていることも確かだ。特に、政府行政による災害被災者を含めた貧困者などの社会的弱者へのケアが急務だろう。
石田雅彦
ライター、編集者
いしだまさひこ:医科学修士(MMSc)。近代映画社で出版の基礎を学び、独立後はネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長などを経験。ライターとして自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行う。横浜市立大学大学院医学研究科博士課程在学中。JASTJ会員。元喫煙者。サイエンス系の著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)など、人文系著書に『季節の実用語』(アカシック)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など、出版プロデュースに『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。