金成 隆一 (著)
なぜトランプなのか? ニューヨークではわからない。アパラチア山脈を越え、地方に足を踏み入れると状況が一変した。明日の暮らしを心配する、勤勉なアメリカ人たちの声を聴く。そこには普段は見えない、見ていない、もう一つのアメリカが広がっていた。朝日新聞の人気デジタル連載「トランプ王国を行く」をもとに、緊急出版!
本書「おわりに」より――
過去1年間のトランプ支持者の取材者リストを見返してみる。
トラック運転手、喫茶店員、電気技師、元製鉄所作業員、道路作業員、溶接工、食肉加工場作業員、ホテル客室清掃員、元国境警備兵、トレーラーハウス管理人、看護師、建設作業員、元家電製造ラインの従業員、郵便配達人――。
集会やバーなどで声をかけて取材した支持者は、数えてみると14州で約150人になっていた。本書に登場するのは、地方で暮らす普通のアメリカ人ばかり。彼らとの会話を振り返ると、日々の暮らしのために必死に働いている人、働いてきた人が多いことに気付く。
記者の取材を受けるのは初めてと言う人ばかり。彼らから見れば、私は海外メディアに過ぎない。それでも「オレに意見を求めてくれるのか」「長く話を聞いてくれてありがとう」と喜んでくれた。しばらくして、わかった。自分の声など誰も聞いていない。自分の暮らしぶりに誰も関心がない。あきらめに近い思いを持っている人たちが多かった。
私は、トランプではなく、問題だらけのトランプを支持してしまう現代アメリカに興味があった。あんな変な候補を支持する人は何を考えているのか? どんな暮らしぶりで、日本人の私にどんな話をするのか? 日本からトランプのニュースを見ている人もきっと首をかしげているに違いない。であれば特派員の仕事になるかもしれない、と考えた。
著者について
1976年生まれ.慶應義塾大学法学部政治学科卒,2000年,朝日新聞社入社.大阪社会部,米ハーバード大学日米関係プログラム研究員,国際報道部などを経て,ニューヨーク特派員.教育担当時代に「「教育のオープン化」をめぐる一連の報道」で第21回坂田記念ジャーナリズム賞(国際交流・貢献報道)受賞.
著書─『ルポ MOOC革命 無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店),『今,地方で何が起こっているのか』(共著,公人の友社)
しかしこの本には、二つの残念なところがあります。
ひとつは、この取材が折角大統領選挙の最中に行われたにも関わらず、その最中には、まったく報道されなかったことです。おそらくトランプ大統領が生まれなければ、このルポルタージュも出版されなかったでしょう。これが選挙期間中に報道されていれば、識者の99パーセントが、大統領選挙を見誤るなどという大失態をしなったとでしょう。(マスゴミたる朝日新聞らしい結果ですね。折角特派員を派遣し、しかも取材てながら、まったく無駄でした。)
さて、もうひとつの残念な箇所は、「第7章アメリカンドリームの終焉」の後半部で、アメリカの民主主義の危機だとか、主張しているいる箇所は読む必要がありません。東海岸と西海岸の左翼の主張で、折角の良いレポートを、トランプ的表現を借りれば、クソまみれにしています(w)。
実際は、トランプがアメリカの民主主義を機器に落としいれたのではありません。日本のマスコミは殆ど報道していませんが、ヒラリーとその支持者が、司法省(FBI)とい共謀してロシアゲート疑惑でっち上げるという、民主主義の破格行為を行ったのです。このあたりのことは、藤井厳喜氏の最近の著作なり、Youtubeなりをご覧ください。
アメリカ通を自認する者であっても、ラストベルトやアパラチア地方に行ったことがある人、ましてやそこに住む人たちにここまで幅広く話を聞いた人はこれまでいなかったのではないか。彼らは貧しいと言われているが、実際に住んでいる家は、日本の水準からすると豪邸であり、あらためてアメリカのミドルクラスの豊かさを思い知った。他方で、これは製造業や石炭業で栄えた過去の産物であり、父母の代より自分たちが豊かになることはなく、ミドルクラスから転落するのではないかとの強迫観念に、多くの白人が襲われているという。ミドルクラスの白人は数で言えば依然として多数派であり、彼らをターゲットとするトランプ大統領の選挙戦略は、本人がどこまで意識していたかは別にせよ、極めて合理的だったと言える。
アメリカのエリートは誰一人として、トランプの勝利を予想していなかったとされる。それは、彼らが、これら一般のアメリカ人と接する機会が無いからである。これほどまでにアメリカ社会が分断されているのかと驚かされた。
面白いだけでなく、マスメディアが置き去りにした現地の人の声を直接届けたものであり、非常に有意義なのも良いです。