マサ(グラミン日本創設者:菅正広氏)、彼のチームの皆さま、おめでとうございます!
国連関連行事の予定と重なり、グラミン日本設立という重要な行事に際して東京で皆さまと一緒にいられないことが残念です。
しかし、このメッセージを通して、多くの友人、支援者、そして日本の皆さまと一緒にグラミン日本の設立をお祝いすることができ、大変うれしく思います。
グラミン日本が、今後、みなさまのご支援を得て末永く活動し、生活困窮する人々を支援するのに成功するものと固く信じています。
グラミン日本設立に際してのメッセージ
2018 年 9 月 13 日
私は、2008 年 3 月 18 日、ダッカのグラミン銀行で、初めてマサと出会ったことを鮮明に覚えています。
爾来、私たちはよき友人としてともに働いてきました。
この間、彼は学者と行政官として忙しく
してきました。この間、マサは私に、日本でマイクロファイナンスができるかどうかと尋ねたことがあります。
私は、マイクロファイナンスはどこでも実現できる、もちろん日本でも、と答えました。
マサはこの私の言葉を真剣に受け止めて、日本でマイクロファイナンスを始める計画を立て始めまし
た。
そして、今日 、私たちは最初の出会いから 10 年、ついに夢のプロジェクトを始めるためにここ
に一緒に立っているのです。
日本で初めてのグラミン型マイクロファイナンス機関が設立されることを皆さまと一緒にお祝いできることを、とても嬉しく思います。
4 年前の 2014 年、マサが『構想グラミン日本』を新たに上梓した際、私はマサに序文を送りました。
今日、 私はその時と同じメッセージを日本の皆さまに送りたいと思います。
(1)誰でも他の人を助けてその問題を解決したいという、 強い無私の志を持っていると私は信じています。
無私の志は、個人的な利益を得たいという欲求と同じくらい強いものです。しかし現代の資本主義は人間のこの強い志を活かすことに関心を払ってきませんでした。
その結果、世界経済は利己に偏った成長を続けてきました。
世界で最も裕福な 8 人が、世界の人口の底辺から半分の人々の富を合わせた以上の富を所有するまでになっています。
経済が成長すればするほど、この富の集中はひどくなっています。
リソースが不足していることが問題なのではなく、最も必要としている人にリソースが届かない経済システムになっていることが問題なのです。
人々が自らの持つ創造力に気づいて、その力を発揮できるような制度・政策になっていないことが問題なのです。
ソーシャルビジネスは、現在の資本主義の、この根本的な既念的枠組みの欠陥を正そうとする試みです。
また、人々が持っている無私の志に基づいた、新しいタイプの事業形態を取り入れることで新しい形の資本主義につながるものです。
ソーシャルビジネスは、飢餓、ホームレス、疾病、汚染、無知といった、人類が長い間苦しんできた社会・経済・環境問題の解決に取り組む「無配当の会社」と定義されるビジネスです。
利己の欲求と同時に、無私の志を併せ持つ多次元的な人々がいる社会では、個人や組織体の無私の志に基づくビジネスが先駆けとなって、社会問題の根絶を目指すことができるのです。
(2)貧困問題においてこそ、このようなソーシャルビジネスの真価が問われます。失業はソーシャルビジネスによって起業に変えることができます。失業者は起業者に、求職者は雇用者に成り得るの
です。
マイクロファイナンスは、今や世界中に知られるようになったソーシャルビジネスの一つの形です。
バングラデシュのジョプラ村で始まったマイクロファイナンスは世界中に広まりました。
今や世界中のほとんどすべての国にマイクロファイナンスのプログラムがあります。
これはアジア、アフリカ、中南米の開発途上国のみならず欧米先進諸国にも言えることです。
そして本日、ついに日本がその仲間入りを果たしました!本当におめでとう!!
グラミン・アメリカは、今やニューヨーク、オマハ、インディアナポリス、マイアミ、シャルロット、
サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ヒューストン、ボストンなど沢山のアメリカの都市で稼働して
います。
各地の女性が小規模のビジネスを始めたり、既存のビジネスを拡大したりできるよう少額の融資が無担保で実行されています。
借り手の女性たちの多くはシングルマザーで、尊厳のある人間らしい暮らしができるようにと頑張っています。
グラミン・アメリカの成功で明らかになったことは、
最も発達した銀行制度を持、 世界で最も裕福な国でさえも、金融アクセスが皆無もしくは不足して
いる何百万もの人々が銀行業務に大きなニーズを持っているということです。
(3)最後に、私が固く信じていることを皆さま全員と分かち合うことで、このメッセージを結びた
いと思います。
それは、 3 つのゼロ――貧困ゼロ、失業ゼロ、二酸化炭素排出量ゼロ ――の世界は、
私たちがそのような世界を創る決意を固めれば創ることができると、私は固く信じているということです。
希望を実現させたいのであれば、私たちはその希望を人生で成し遂げたいことの一部にしなければなりません。
目標を達成するためには、適切な概念、制度、技術、そして政策を創らなければなりません。
古い道を歩めば、古い目的地にしかたどり着けません。 新しい目的地に行きたいのであれば、新しい道を歩むことが必要なのです。
新しい目標が不可能に見えれば見えるほど、その仕事はワクワクしたものになります。
ソーシャルビジネスは、日本が直面する問題に取り組む有力なツールになります。
これこそ新しい道なのです。
私は、マサも彼のチームも「新しい目標が不可能に見えれば見えるほど、その仕事はワクワクしたものになる」と固く信じていると聞いて、とても嬉しく思います。
グラミン日本が日本の人々に貢献し、
日本の社会がこれまでと違ったように考え、違った行動を取るものと信じています。
私は、日本の人々、企業、銀行、中央・地方政府、NPO、その他のパートナーの方々が温かくグラミン日本を支援してくれることを心から期待しています。
全ての日本の皆さまと、グラミン日本の幸運を心よりお祈りします!
2006 年ノーベル平和貰受貰者
グラミン銀行創設者
ムハマド・ユヌス
9/13/2018