小林秀雄のドストエフスキーの伝記と比較するために購入したが、非常に文献としての価値の高い本であった。しかし、そういう意味で読まなくても、十分楽しめる本である。
ただし、この翻訳書は、日本で最初のものではない。小林秀雄自身は英語で読んでいる。
日本の評者による著作では、土台とうてい無理だったドストエフスキーの全貌を描ききっている。
たとえば小林秀雄のドストエフスキーでは、何か対象を取り上げるたんびに小林自身がしゃしゃり出てくるから、ドストエフスキーを取り巻く状況がいっこうに明らかにならない。
それだけ主観的で情熱的ともいえるが、混乱してる読者にとって大事なのは客観的に状況をクリアにすることである。
そのてんカーさんの評伝は客観的描写につとめており、非常に役に立つ。
ドストエフスキーの手紙、ドストエフスキーの妻の回想録、当時の新聞の記事、関係者のインタビューなどを総動員してドストエフスキーの全体をからめとっている。
見事な仕事であり、これをもってドストエフスキーは的確に葬られたといってよい。
ドストエフスキーの意味は最終的に解明されたのだ。
評論家の作業とは本来こうゆうものであろうと思う。
つまり、作家と作品を最後的にほうむりさること、ワクにはめること、意味をはっきりさせること、ソトボリをうめること。
それができるのは海外の評者にしかいないというのは日本の恥であり、いちばん残念なことである。
とはいえ、もしかしたら日本人の右往左往にも意味はあるのかもしれない。
いってみれば感得したものを歌い上げてるわけだが、歌自体にはそもそも意味はないから
![](https://m.media-amazon.com/images/I/51q-IxFYQUL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg)
ドストエフスキー伝
内容(「BOOK」データベースより)
「ゴーゴリの再来」とうたわれた文壇への登場、銃殺寸前の体験と過酷なシベリヤ流刑、劇的な恋愛と結婚、飽くことなき賭博熱。
―文豪の波瀾の生涯と名作誕生の背景を、書簡・回想録等の膨大な資料を駆使し圧倒的迫力で描く会心作。
ドストエフスキーの生涯については、断片的には知っていたが、こうして通して読んだのは初めて。前半のシベリア流刑まではオーソドックスな伝記スタイルだが、『死の家の記録』発表以降は作品の成立過程や思想をからめながらの展開。著者はドストエフスキーの研究者ではないが、結構深く各論に入っていっているように感じた。
でも小林秀雄みたいな感じではなかったので一安心。要するに読みやすいということ。
ドストエフスキーの人となりについてはハチャメチャで支離滅裂。思った通りのただのギャンブル依存症。なのだが、人間の底が抜けてしまっているか、時には愛おしいとさえ感じた。
そんなふうにアンナ・グリゴーリエヴナも思っていたのではないかな。
ラジオのロシア語講座だったかで、ドストエフスキーはロシアではそんなに人気はない、というようなことを聞いた記憶があるが、一人の人間としてみれば19世紀ロシアの文豪では最も身近な存在に感じられる。その辺をこの評伝はうまく伝えていると思った。
評伝は往々にして心酔者によって書かれるが、ドストエフスキーに関しては、心酔の度が過ぎて著者の偶像を描いてしまうことが多い。
本書は違う。トロワイヤはドストエフスキーを突き放し、ギリシャ正教とスラヴ民族至上主義者になってゆくドストエフスキーを淡々と描いている。ドスト嫌いにも勧められる評伝である。
Reviewed in Japan on June 14, 2018
標題の通りの人生です。誉め言葉でいえば、波乱万丈かな。換言すると、罪作りの人生です。
私は、「罪と罰」と「カラマーゾフの兄弟」しか読んでおりませんが、どちらも人間の心を揺さぶる人類史上の歴史に残る大作です。ただし、後者は未完の大作で、第4部(完結編)を完成させてから昇天してもらいたかったです。
性格的には、他の方のご指摘にもあるように、シベリアに流刑されても決してめげない驚異的な個性の持ち主で常人の及ばない精神的、肉体的タフさに恵まれております。最初の結婚はシベリア流刑時代で、年上の未亡人でしたか。
でもちゃっかり流刑を解かれてペテルブルグに戻ってくると秘書に雇った女子学生と再婚してますな。羨ましい限りです。
そして、ベストセラーを連発しまくって、生活にゆとりが出てくると、旅行に出かけて、賭け事に熱中し、素寒貧になるんでしたね。
打開策が、次回作を担保にして出版社から借金しまくるという、今でいうところの「ギャンブル依存症」です。
それでも歴史に残る名作を次から次に世に送り出すのですから、こりゃもう天才としか言いようがありません。
奥さん泣かせですね。
本書は、彼の作品も短くまとめて、読者にその全貌が明らかになるよう、配慮してくれてますので、助かります。
私は、「罪と罰」と「カラマーゾフの兄弟」しか読んでおりませんが、どちらも人間の心を揺さぶる人類史上の歴史に残る大作です。ただし、後者は未完の大作で、第4部(完結編)を完成させてから昇天してもらいたかったです。
性格的には、他の方のご指摘にもあるように、シベリアに流刑されても決してめげない驚異的な個性の持ち主で常人の及ばない精神的、肉体的タフさに恵まれております。最初の結婚はシベリア流刑時代で、年上の未亡人でしたか。
でもちゃっかり流刑を解かれてペテルブルグに戻ってくると秘書に雇った女子学生と再婚してますな。羨ましい限りです。
そして、ベストセラーを連発しまくって、生活にゆとりが出てくると、旅行に出かけて、賭け事に熱中し、素寒貧になるんでしたね。
打開策が、次回作を担保にして出版社から借金しまくるという、今でいうところの「ギャンブル依存症」です。
それでも歴史に残る名作を次から次に世に送り出すのですから、こりゃもう天才としか言いようがありません。
奥さん泣かせですね。
本書は、彼の作品も短くまとめて、読者にその全貌が明らかになるよう、配慮してくれてますので、助かります。
作品は、面白いですが長編、それも並みの長編ではありませんから、読むのに躊躇される方には、うってつけの入門書です。
トルストイとよく比較されますが、ある意味、ドストエフスキーの方が性格はともかく、変化に富む良作というより奇作の数々でおもしろいかもしれません。
トルストイとよく比較されますが、ある意味、ドストエフスキーの方が性格はともかく、変化に富む良作というより奇作の数々でおもしろいかもしれません。
本書を入門書にして是非とも彼の作品にチャレンジしてください。
ここまで拝読いただきありがとうございます。
追伸 彼の小説からの引用で面白いものがあります。帝政を打倒し、新しい国家を夢想する共産主義者への警鐘です。彼らが革命に成功して樹立する国家は、必ず自らの体制を守るために反対勢力に対し弾圧を行うだろう。
ここまで拝読いただきありがとうございます。
追伸 彼の小説からの引用で面白いものがあります。帝政を打倒し、新しい国家を夢想する共産主義者への警鐘です。彼らが革命に成功して樹立する国家は、必ず自らの体制を守るために反対勢力に対し弾圧を行うだろう。
その弾圧は今の国家の比ではない組織的な大弾圧になるだろう。
結局、国民は革命が成就しても決して幸せになれないだろう。
これ、ぴったしカンカンですね。レーニン、スターリンいずれ劣らぬ圧政を敷き国民を大量虐殺しました。全くの余談ですが、ドストエフスキーの先見の明には頭が下がります。
これ、ぴったしカンカンですね。レーニン、スターリンいずれ劣らぬ圧政を敷き国民を大量虐殺しました。全くの余談ですが、ドストエフスキーの先見の明には頭が下がります。
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ドストエフスキーは愚劣な成功への過信や恋愛や賭博熱を経験した。一方で、彼にはシベリア流刑などにおける忍耐強さ、文学や祖国ロシアへの変わらぬ情熱、二度目の結婚における家族への深い愛情もあった。極端な高潔と強欲との間で戦い続けた、非常に人間臭い彼にしか書きえなかったもの、成しえなかったことがあった。
自分は彼のとっつきにくい作品群から、同じようにとっつきにくい作家像を勝手に作り上げていたが、本書に多く紹介された書簡やアンナ夫人の日記によって必ずしもそうではないということも分かった。いやらしい人であると同時に、愛すべき人でもあるように思われるのだ。
自分は彼のとっつきにくい作品群から、同じようにとっつきにくい作家像を勝手に作り上げていたが、本書に多く紹介された書簡やアンナ夫人の日記によって必ずしもそうではないということも分かった。いやらしい人であると同時に、愛すべき人でもあるように思われるのだ。
それを知ることによって、彼の作品を読む際に、物語や登場人物に新たな光があてられるであろうことがうれしい。
700ページ超の大ボリュームに、作家の偉大さも滑稽さも偏りなく詰め込まれており、作品論も慧眼に貫かれている。なおかつ、始めから終わりまで退屈さを感じさせないという良書だった。
700ページ超の大ボリュームに、作家の偉大さも滑稽さも偏りなく詰め込まれており、作品論も慧眼に貫かれている。なおかつ、始めから終わりまで退屈さを感じさせないという良書だった。
最近出版された文庫本などの、ドストエフスキーの解説では、「悲惨な生活にあえぐ民衆を見つめた優しい人」みたいな解説が多い。
けどここで出されるドストエフスキー像は、病弱な妻を見捨て、若い娘に走り、その女に捨てられ、妻のもとに厚顔にも帰ってくる。妻の死後は、26歳年下の社会的な身分の低い女性につけこみ結
婚。彼女を行使しながらも、偉大な作品を生みだしていく…。
有名な本らしいので、ロシア文学愛好家の方にとっては常識的な内容が書いている
かもしれませんが、個人的には驚かされるが多かった。
婚。彼女を行使しながらも、偉大な作品を生みだしていく…。
有名な本らしいので、ロシア文学愛好家の方にとっては常識的な内容が書いている
かもしれませんが、個人的には驚かされるが多かった。
トルストイもそうですが、
偉大な小説家というのは、身近な人間に迷惑をかける人が多いですね。
偉大な小説家というのは、身近な人間に迷惑をかける人が多いですね。
こういう作家像をみせられても、作品が偉大なことにはかわり無いわけですが。
作者はフランスのベストセラー歴史作家らしく、非常に読みやすい人物伝でした。英語の検証サイトもいくつかあるので、読んだ知識のフォローもしやすいかと思います。
このページ数を息もつかせず読ませるのは凄い。面白かった!人間の強さとは選択ではなく必要から来るのだなぁ、とドストエフスキーの不屈の人生を眺めながら実感した。壊れるか、というところで壊れない。
最悪の状況を自ら作り、泣いて喚いて喘ぎながらそれでも作品は書き続ける。愛情も憎悪も、得意も失意も妬みも寛容も、他人よりはるかに膨大な人だったらしいのがよく伝わってくる。
人間関係の濃厚な世界でもある。ベリンスキーもツルゲーネフも随分と性格が悪いが、誰もが人間臭く生き生きとしており、どんな人間関係であろうととにかく感情の係わり合いが深い。
ドストエフスキーの代表作を小気味良く紹介してくれるので、「読まずに知るドストエフスキー名作選」的にも使える(かもしれない)。
翻訳も読みやすくてマル。
翻訳も読みやすくてマル。
しかしドストエフスキーが吠えるナショナリストと化した「中東紛争」というのはクリミア戦争だと思うが、「中東戦争」という訳語は適当なのかしらん。
ドストエフスキーは『罪と罰』と『カラマーゾフ』しか読んでおらず、『白痴』を途中放棄し『悪霊』を読もうと思いつつ十年以上経過しているだけのぬるい文学読みなのだが、本書を読んで『悪霊』は絶対に読もうと決意を新たにさせてもらった。
ドストエフスキーは『罪と罰』と『カラマーゾフ』しか読んでおらず、『白痴』を途中放棄し『悪霊』を読もうと思いつつ十年以上経過しているだけのぬるい文学読みなのだが、本書を読んで『悪霊』は絶対に読もうと決意を新たにさせてもらった。