発達障害は、治す必要はない。
その人の気質なのだ。
生活の質を高めることを先に考えた方がいい。
障害は経験するものだ。
発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。
そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。
発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を活かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。
「発達障害」とは
生まれつきの特性です
発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが含まれます。
これらは、生まれつき脳の働き方に違いがあるという点が共通しています。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。
自閉スペクトラム症とは
コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。
また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。
注意欠如・多動症(ADHD)とは
発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。
学習障害(LD)とは
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。
チック症とは
チックは、思わず起こってしまう素早い身体の動きや発声です。まばたきや咳払いなどの運動チックや音声チックが一時的に現れることは多くの子どもにあることで、そっと経過をみておいてよいものです。しかし、体質的にさまざまな運動チック、音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになることもあり、その場合にはトゥレット症とよばれます。
吃音とは
滑らかに話すことができないという状態をいいます。音をくりかえしたり、音が伸びたり、なかなか話し出せないといった、さまざまな症状があります。
発達障害のサイン・症状
自閉スペクトラム症
目を合わせない、指さしをしない、微笑みかえさない、あとおいがみられない、ほかの子どもに関心をしめさない、言葉の発達が遅い、こだわりが強いといった様子がみられます。保育所や幼稚園に入り、一人遊びが多く集団活動が苦手なことや、かんしゃくを起こすことが多いことで気づかれることもあります。
言葉を話し始めた時期は遅くなくても、自分の興味のあることばかりを話し、相互的に言葉をやりとりすることが難しい場合もあります。
また、電車、ミニカーやビデオなど、自分の興味のあることには、毎日何時間でも熱中することがあります。初めてのことや決まっていたことが変更されることは苦手で、環境になじむのに時間がかかったり、偏食が強かったりすることもあります。
思春期や青年期になると、微妙な対人スキルを求められることも増えますし、学習課題においても多様な能力を総合的に求められる機会が増えます。就職してから仕事が臨機応変にこなせないことや対人関係などに悩み、家庭生活や子育ての悩みを抱え、病院を訪れる人もいます。
不安やうつなどの精神的不調を伴うこともあります。また。成人期になってから日常生活、家庭、職場などで困難を抱え、精神的な不調を伴い支援を必要とすることもあります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
子どもの多動性-衝動性は、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などで認められます。
不注意の症状は、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。
大人になると、計画的に物事を進められない、そわそわとして落ち着かない、他のことを考えてしまう、感情のコントロールが難しいなど、症状の現れ方が偏しますが、一般に、落ち着きのなさなどの多動性-衝動性は軽減することが多いとされています。また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。
学習障害(LD)
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみが難しい状態を指し、それぞれ学業成績や日常生活に困難が生じます。
治療や支援について
自閉スペクトラム症
幼児期には、個別や小さな集団での療育を受けることによって、対人スキルの発達を促し、適応力を伸ばすことが期待されます。視覚的な手がかりを使ったり、先の見通しを持ちやすく提示したりすることで、子どもは安心して過ごしやすくなり、情緒的にも安定してきます。そのなかで基本的な日常生活のスキルや言葉や言葉以外の手段を通したコミュニケーションのスキルを獲得していきます。
自閉スペクトラム症の子育てには様々な工夫が必要ですが、支援者や医療関係者などの専門家とともに、子どもの歩みを養育者とともに見守り、考えていきます。 自閉スペクトラム症を治癒する薬はありません。
睡眠や行動の問題が著しい場合や、てんかんや精神的な不調に対して、薬物療法を併用する場合もあります。精神的な不調が現れるまえにストレス要因や生活上の変化がなかったかなどを確認し、環境調整を試みることも大切です。
幼児期から成人期を通して、身近にいる親や配偶者が本人の特性を理解していることがとても重要です。また、学校の先生や職場の同僚などの理解も大切です。人は誰しもひとりで生きていません。自閉スペクトラム症の当事者にとっても支えの輪があることが大切なのです。
成人を対象とした対人技能訓練やデイケアなどのリハビリテーションを行っている施設もあります。また、都道府県や政令指定都市ごとに発達障害者支援センターが設置されており、自閉スペクトラム症の当事者を対象にしたグループ活動を提供したり、生活自立・就労等の相談に応じたりしています。
注意欠如・多動症(ADHD)
幼児期・学童期には環境を整えて集中して課題に集中しやすいようにする、褒め方を工夫するなどの方法で、増やしたい行動を増やすのが基本です。
勉強などに集中しないといけないときには本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消す。集中しないといけない時間は短めに、一度にこなさなければいけない量は少なめに設定し、休憩をとるタイミングをあらかじめ決めておく、やらないといけないことはToDoリストに書いたり、簡潔にわかりやすい言葉で伝えたりすることも大切です。
しかし、ADHDの子どもたちは、行動を切り替えるのが苦手であったり、意に反すことにかんしゃくを起こしたりすることも多いので、養育者も、「ダメでしょ」「どうして・・・なの」などと否定的な言葉で感情的に反応してしまいがちです。ADHDについて知り、増やしたい行動や減らしたい行動を整理し、うまく褒めながらよりよい行動を導いていくためには、養育者のスキルを伸ばすことや同じように頑張っている親同士のつながりや心の支えが大切です。
養育者が小集団でADHDへの理解を深め、対応するスキルを身につけるためのペアレント・トレーニングも実施されています。環境調整や行動からの取り組みを行っても日常生活における困難が持続する場合には薬物療法を併用します。
薬物療法は症状を緩和するもので根治的な手段ではありませんので、効果と副作用のバランスに注意しながら選択します。
成人になってからも、作業にミスが多かったり、行動を計画的に順序だてて行うことが苦手、いつも心が落ち着かない、感情のコントロールが苦手などの症状があることもあります。子どもと同様に、環境調整、行動療法や薬物療法が実施されます。精神的不調を伴っている場合には、その治療も併せて実施されます。
学習症(学習障害)(LD)
学習症の子どもに対しては、教育的な支援が重要になります。読むことが困難な場合は大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んだり、文章を分かち書きにしたり文節に分けることも有用です。音声教材(電子教科書)を利用することも可能です。
書くことが困難な場合は大きなマス目のノートを使ったり、ICT機器を活用したりすることも可能です。計算が困難な場合は絵を使って視覚化するなどのそれぞれに応じた工夫が必要です。学習症は、気づかれにくい障害でもあります。子どもにある困難さを正確に把握し、決して子どもの怠慢さのせいにしないで、適切な支援の方法について情報を共有することが大事です。
チック症
まばたきをする、顔をしかめる(運動チック)や咳払いや舌打ち(音声チック)などのチックが一時的にあらわれることは多くの子どもにみられることです。そのため、特に指摘をせず、経過をみます。しかし、多彩な運動チックと音声チックが1年以上にわたり強く持続し、日常生活に支障を来すほどになることもあります(トゥレット症)。
飛び上がる、自分の体や足を叩く、しゃがむ、おなかに力をいれる、単語をいうなどの複雑な動きや発声を伴こともあります。症状は典型的には10-15歳ぐらいに一番強くなりますが、成人になっても強い症状を継続することもあります。トゥレット症は、体質的なチックで、その症状を制御することはごく短時間しかできません。
そのことをまず周囲の人が理解することが大切です。チックが現れそうな衝動が起こったときにチックと拮抗するような動きをする(ハビットリバーサル)や薬物療法が実施されます。トゥレット症に有効性が認められた薬は日本にはありませんが、統合失調症の薬などが有効であることが知られています。
吃音
よくある誤解は、吃音が厳しい子育てや本人の精神的な弱さの結果であるというものです。就学前にみられる吃音は数年の間に軽減することが多いのですが、長期に持続する子どももいます。吃音は体質的な要素が強いことが知られています。
からかいやいじめの対象となっていないか、また学校などの発表などの場面が本人の苦痛となっていないかを把握し、環境調整を行うことが大切です。吃音の治療として、言語聴覚療法や認知行動療法が実施されます。
最終更新日 2020年12月14日 更新履歴
概要
発達障害とは、生まれつきの脳の障害のために言葉の発達が遅い、対人関係をうまく築くことができない、特定分野の勉学が極端に苦手、落ち着きがない、集団生活が苦手、といった症状が現れる精神障害の総称です。
症状の現れ方は発達障害のタイプによって大きく異なり、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害、などさまざまな障害が含まれます。幼少期または学童期から症状が現れますが“変わり者”“怠け者”という誤った認識がなされ、見過ごされているケースも多いと考えられています。社会人になってから、不注意やミスが多いといった症状が目立つようになり初めて診断が下されるケースも少なくありません。
発達障害による症状は薬物療法などである程度抑えることができるものもありますが、根本的な治療法はない症状が多いのが現状です。発達障害を抱える当事者はさまざまな場面で「生きにくさ」を感じているとされており、将来的に症状とうまく付き合いながら日常生活を送っていくには早期の段階で生活訓練などの療育を始めることがすすめられています。
原因
発達障害の原因は、生まれつきの脳の機能障害と考えられていますが、明確な発症メカニズムは解明されていません。
また、脳の障害以外にも、遺伝や胎児期の感染症、農薬への暴露などが発症に関与しているとの説もあります。
症状
発達障害の症状は障害のタイプによって大きく異なります。
発達障害の中でも発症率が高いとされる自閉症スペクトラム障害は、幼児期から他者とのコミュニケーションが極端に苦手、こだわりが強い、融通が利かない、といった症状が見られます。
一方、注意欠陥・多動性障害は7歳頃までに、注意力が極端に散漫であり、衝動性の高い行動が見られるようになります。集団生活の場では、授業中に椅子に座っていることができずに歩き回るといった行動が見られ、学業や集団行動に支障をきたすようになることも少なくありません。
学習障害は、知的水準自体は低くないものの、読む・書く・計算などの特定の分野の学習能力が極端に低いのが特徴です。
いずれのタイプの発達障害も幼少期や学童期に症状が現れ始めます。特に、幼稚園や小学校などの集団生活を開始すると症状がより顕著になります。小学校低学年の頃から学業成績の低下や周囲との軋轢などによって意欲や自信が低下するケースも少なくありません。
一方で、障害のタイプや重症度によっては成長するとともに症状が目立ちにくくなることもあります。しかし、単純なミスや不注意を起こしやすいことなどで社会人になってから生きにくさを強く実感し、二次的に不安症状やうつ症状などの精神的な変調を併発することもあります。
検査・診断
発達障害が疑われる場合は、次のような検査が行われます。
心理検査・発達検査・知能検査
発達障害は、がんなどの病気のように画像検査や血液検査で発見することはできません。一方で、精神的な発達の遅れ、知的機能の偏りなどが現れるため、心理士などによる心理検査・発達検査・知能検査の結果が診断の重要な手がかりとなります。
これらの検査は、基本的には心理士や医師と対面して与えられた問題を答えていくことによって行われますが、文字を書けなかったり読めなかったりする幼児でも受けることができるよう工夫がなされています。
画像検査
発達障害と似た症状が、脳腫瘍など脳の病気によって引き起こされることもあります。そのため、発達障害が疑われるものの脳腫瘍などの可能性も否定することが難しい場合には、頭部CTやMRIなどによる画像検査を行うのが一般的です。
脳波検査
発達障害はてんかんを併発しやすい病気です。そのため、てんかんを併発しているか調べるために脳の電気的な活動を記録する脳波検査が行われることがあります。
血液検査
発達障害で現れる症状の中には、甲状腺機能低下症など何らかのホルモン分泌異常が原因で引き起こされることもあります。それらの病気との鑑別を行うために血液検査で各ホルモン値などを調べる検査をすることがあります。
治療
発達障害は、現在の医学では根本的な完治が見込める障害ではありません。
しかし、それぞれの症状を改善するための薬物療法を行うことがあります。具体的には、脳のはたらきを活性化させることでADHD症状を治療する精神刺激薬などが用いられます。また、併発した不眠症に対する睡眠薬、うつ症状に対する抗うつ薬なども用いられることがあります。
一方で、発達障害は症状とうまく付き合いながら、できるだけ円滑な社会生活を送るスキルを習得することが大切です。そのためには、幼少期から自身の症状をカバーするような日常生活の習慣を身に付ける「療育」を行うことがすすめられています。
予防
発達障害は、生まれつきの脳の障害によって引き起こされるため発症を予防するのは困難であるとされています。
しかし、発達障害と診断された場合は上述したとおり、できるだけ早めに療育を行って「生きにくさ」を改善していくことが大切です。気になる症状がある場合は、軽く考えずに医療機関や行政機関などに相談しましょう。また、これまで発達障害と診断されたことがない成人でも、ミスや不注意が多かったり、対人関係でトラブルを起こしやすかったりする人などは医療機関を受診するとよいでしょう。
医師の方へ
発達障害の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
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自閉症は検査だけで診断可能?検査の種類
白百合女子大学 教授(副学長)
宮本 信也 先生
自閉スペクトラム症はどのように診断されるの?~症状の特徴・受診の目安・相談先とは~
受診について相談する
浜松医科大学 医学部精神医学講座 教授
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
- 受診予約の代行は含まれません。
- 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。
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山末 英典 先生
1998年より医師としてキャリアをはじめる。2000年に東京大学医学部附属病院に赴任し、2009年には同大学大学院医学系研究科(精神医学)准教授に就任。2016年より現職。精神疾患の病態解明と治療薬開発を研究テーマとし、2016年4月より日本医療研究開発機構 脳科学研究戦略推進プログラム融合脳 発達障害・統合失調症等の克服に関する研究チームのチームリーダーに就任。2018年には、自閉スペクトラム症の初めての治療薬候補としてオキシトシン経鼻剤を用いて行ってきた研究成果に対して、首相官邸で日本医療研究開発大賞の表彰を受けた。