5月3日午前3時30ふんからCSテレビのザ・シネマで観た。
『ゲティ家の身代金』(ゲティけのみのしろきん、All the Money in the World)は2017年のアメリカ合衆国・イギリス合作映画。1973年に、当時フォーチュン誌から”世界一の大富豪”に認定されたゲティオイル社社長のジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された実話をフィクションを織り交ぜて描く。監督はリドリー・スコット。出演はミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、マーク・ウォルバーグほか。クリストファー・プラマーは、過去の犯罪が発覚し降板したケヴィン・スペイシーの代役を急遽演じ、約10日間で該当シーンを撮り終えた。
原作はジョン・ピアースン(英語版)が1995年に発表したノンフィクション『ゲティ家の身代金』(ハーパーコリンズ刊)。日本では、一部暴力描写があるためR15+指定で公開された。
ストーリー
実業家のジャン・ポール・ゲティは中東との石油取引で莫大な富を得るが家族との関係は冷めていた。1973年7月、ローマ。ゲティの孫であるジョン・ポール・ゲティ3世は、夜の街で街娼をあさっているところを、男たちによって拉致される。犯人グループのうち、英語を話せるチンクアンタが監禁したポールの世話係をつとめることになる。
ポールの母親のゲイルは夫と離婚し、息子と共に富豪一族とは離れて生活していた。
ゲイルの元に誘拐犯からの電話がかかってくる。
身代金は1700万ドルという莫大なものだった。
ゲイルはゲティに電話をかけるがゲティは株取引に夢中で応じない。やがてゲイルはテレビニュースでゲティの姿を見る。
ゲティは記者たちに向かって、身代金の支払いは断固拒否すると言い放つ。
「要求に応じれば他の14人の孫たちも危険に晒される」というのが理由だった。
ゲティは、元CIAで現在はゲティのもとで中東の業者との交渉人をしているフレッチャー・チェイスを呼び寄せ、なるべく費用をかけずに孫を取り戻せと指示する。
チェイスはゲイルの元に赴く。彼女の自宅はマスコミに囲まれており、世界中の自称誘拐犯からの手紙が送られていた。
ポールの死体が見つかったという連絡を受けゲイルは警察に確認に行くが、それは別人だった。
それは犯人グループの一人であり、そこから犯人たちの身元が判明する。
警察は隠れ家に向かうが、既にポールは世話役のチンクアンタと共に、別の犯罪グループに売り飛ばされていた。
ポールは監禁された山小屋に放火し、混乱に乗じて脱出し、民家に逃げ込むが、そこで連れ戻されてしまう。リーダーのマンモリティは、ポールの耳を切断し、新聞社に送りつける。
ゲイルは、ゲティが身代金を払うと聞かされ、チェイスと共にロンドンに向かう。
ゲティは身代金を貸す代わりにゲティにポールの親権を譲るように要求し、ゲイルはこの条件を呑む。しかし、税制上、イタリアには400万ドルしか送金できないことをゲティは告げる。
ゲイルは電話でチンクアンタと交渉するが、チンクアンタは次は足を切ると警告する。
ゲイルは記者会見を開き「身代金は全額払う」と発言する。
驚いたゲティはチェイスを問いただすが、チェイスはゲイルの味方をする。ゲティのもとに原油価格が暴落したという知らせが届きゲティはショックを受ける。
ローマに戻ったチェイサーは、ゲティからの「金も子供もやる」という伝言を受け取る。
石油ショックで自動車の往来が途絶えた道路を、ゲイルとチェイサーは身代金の引き渡しのために軽自動車を走らせる。
犯人の指示通りに道路の途中で現金の入ったバッグを捨てる。
ようやく開放されたポールは一人で隠れ家から歩み去る。
犯人グループは身代金を分配して逃走しようとするが、警察のヘリコプターが尾行していたことに気づき、マンモリティはポールの殺害を指示する。
追跡に気づいたポールは街に逃げ込むが、そこに住む人々は報復を怖れて誰もポールを助けようとはしなかった。
チェイサーはポールの行方を追って、犯人グループが行き交う街にたどり着く。
そこに、チンクアンタが捕まりそうになっていたポールを連れ出してチェイサーに引き渡す。
ポールは母のゲティとともに数カ月ぶりに帰宅する。
その頃、ゲティは発作を起こしてひとり屋敷のベッドで息絶えた。
ポールは莫大な遺産の相続人となり、ゲイルは彼が成人するまでの代理人に就任した。
のちにゲイルが世界中から買い漁った美術品を元にゲティ美術館が設立され、ゲティ財団は、さまざまな慈善事業のスポンサーとなった。
キャスト
巨匠リドリー・スコットが暴く、エイリアンよりも禍々しき大富豪の実像
金離れの悪い人物を世間一般に「ケチ」というが、その規模が1700万ドルの身代金を払う払わないのレベルとあらば、そりゃ映画にもなるだろう。
1973年にローマで起こった大富豪親族の誘拐事件の顛末を、本作で巨匠リドリー・スコットは犯罪スリラーさながらに描き上げた。
御歳80にして、他人の血だまりでスッ転ぶ残酷SF「エイリアン・コヴェナント」(17)の後にこれを発表するとは、まったく創造の手綱を緩めないにも程がある。
しかも監督は年齢相応に枯れた題材ではなく、常にジャンルに一石を投じるような作品へと積極的にアクセスしているのだ。
世界トップクラスの財に恵まれながらも、誘拐された孫の身代金要求に応じようとしない石油王ゲティ(クリストファー・プラマー)。
そのせいで孫の母親ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は、徒手空拳で誘拐犯との交渉を強いられる。
展開が進むにつれて表面化する人間の強欲や、命の対価を問うシビアな金銭闘争など、それらに対して本作は観る者に再考をうながしていく。
またケチという話に的を絞れば、孫を誘拐されたゲティ翁の守銭奴ぶりは、キャラが立ちまくっていて見ものといえるだろう。
他人に電話を貸すのも惜しいと、私邸に公衆電話を設置するなんてのは序の口。
果ては身代金を息子に貸したことにし、金利を得ようともくろむなど、度を超えた富裕層が繰り出すネジれた錬金哲学には「こんなのが身内でなくてよかった」と胸を撫でおろすばかりだ。
そんなゲティの、醜悪さを上塗りした下地に人格の見える肖像画が、クリストファー・プラマーによってこってりと描写されているのも素晴らしい。
当初はケヴィン・スペイシーが演じていたが、セクハラ疑惑で途中降板となった不名誉をプラマーが見事にカバーし、緊急の代役とは思えぬ存在感を示している。
またこうした交代を実現させ、映画を完成へと導いたリドリーの天才的な動きも賞賛に値する。
なにより、エイリアンよりも禍々しいそんな祖父と誘拐犯とで板挟みとなり、それでも我が子を救おうとするゲイルの存在は「エイリアン」(79)や「テルマ&ルイーズ」(91)「G.I.ジェーン」(97)といった諸作の女性主人公へとリンクする。じつにリドリー・スコットらしいヒロイン映画だ。
(尾崎一男)