良いことばかりは、続かない。
利根輪太郎の競輪人生の皮肉である。
過去を語っても空しい!
希望の星を目指していたのだが・・・
「本命も、穴もとって、輪ちゃんは天才じゃないの!」荻さんは私から10万円を進呈されて歓喜の声を上げた。
荻さんが10万円のご祝儀を輪太郎からもらったことで、7人の競輪仲間がを輪太郎を取り囲むのだ。
輪太郎は、そんな競輪仲間に各1万円を配ったのだ。
「勝ち金だ、これで運を引きよせるよ」寺ちゃんは頬を紅潮される。
私は競輪場に長いは無用と、9レースで競輪仲間に手を振る。
「勝ち逃げが、一番いいよ」荻さんが輪太郎の背後で言葉をかける。
280万円余の金を払い戻した輪太郎は、タクシーで東京・大塚のフィリピンパブに向かう。
ジェシカに会いに・・・。
明日、ジェシカはフィリピンに帰国するので、彼女に餞別に50万円を進呈するつもりであった。
ジェシカの16歳の妹がエイズにり患して、厳しい状況と言っていたんのだ。
失恋して落ち込んでいた輪太郎は、会社の先輩に誘われ、初めて大塚のフィリピンパブへ行く。
ジェシカは、いわゆるボディコンスーツ姿であり、いかにも肉感的な様相であった。
ホステスたちのダンサーや歌手を売りもにするパブであり、ショータイムで、ジェシカが「愛人」を熱唱する。
タガログ語で愛人は、KABIT(カビット)。
「あなた、わたしのカビット、いいね」はジェシカいきなり、輪太郎の唇に口を寄せる。
輪太郎は、ジェシカと浅草や銀座、新宿でデートを重ねたが、一度もジェシカの体を求めたことがなかった。
輪太郎は「日本人には、こんな稀な男も存在するのだ」と示さなかったのである。
それは、彼の信仰の体現でもあった。
輪太郎の祖父は、フィリピンで戦死していた。
日本軍に蹂躙された東南アジアに対しての贖罪を、輪太郎は体現したかったのだ。
東南アジア諸国への賠償や準賠償は、日本の戦時中の行為に対する贖罪。
日本軍が太平洋・東南アジアで戦争に突入したのは、日中戦争の行き詰まりを打開し、石油、ゴム、食糧などの資源を獲得する戦略目標からであった。
開戦当初は日本軍は各地で勝利し、シンガポール、フィリピン、インドネシア、ビルマへと占領地を拡大していった。