今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)コラム集から。
「何を売ってもいい。ただ正義だけは売ってはならない、岩波は終始正義を売物にしたと『岩波物語』に書いたとき、正義を売ってどこが悪いと言われた。かくのごとく分りたくないものに分らせることはできないからただ『聖書にある』と言うにとどめた。」
「旧制一高の寮歌に『友の憂いにわれは泣きわが喜びに友は舞う』というのがあるが、友の不運はどこかかすかに嬉しいものであり、友の幸運は一度はいいが、たび重なるといまいましいものである。友の幸運を何度でも喜ぶのが真の友だというともう分らない。とんでもない、友の悲運を喜んだことなんぞ一度もないと承知しない。それはついぞ自己の内心を見たことのない者の言葉だといえば怒るから言わない。言葉はついにそれを待つ人にしか通じないというゆえんである。」
(山本夏彦著「愚図の大いそがし」文春文庫 所収)
「何を売ってもいい。ただ正義だけは売ってはならない、岩波は終始正義を売物にしたと『岩波物語』に書いたとき、正義を売ってどこが悪いと言われた。かくのごとく分りたくないものに分らせることはできないからただ『聖書にある』と言うにとどめた。」
「旧制一高の寮歌に『友の憂いにわれは泣きわが喜びに友は舞う』というのがあるが、友の不運はどこかかすかに嬉しいものであり、友の幸運は一度はいいが、たび重なるといまいましいものである。友の幸運を何度でも喜ぶのが真の友だというともう分らない。とんでもない、友の悲運を喜んだことなんぞ一度もないと承知しない。それはついぞ自己の内心を見たことのない者の言葉だといえば怒るから言わない。言葉はついにそれを待つ人にしか通じないというゆえんである。」
(山本夏彦著「愚図の大いそがし」文春文庫 所収)