今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 何度も言うがわが税制は我々の嫉妬心の上に立っている 。
今から十年前二十年前千万円の貯金があるものは持てるもので 、持てるもの
からは奪うのが正義だと気勢をあげていたら 、いつのまにか自分も千万円の
預金の持主になって 、しまったと思うならまだしも今度は一億持つものは持
てるもので 、持てるものから奪うのは正義だと言うのだから 、その根底に
あるのは 際限のない 嫉妬 だと分るのである 。
嫉妬心なら劣情で 、劣情がそのままあらわれるのはさすがに恥ずかしいから 、
それはいつも正義のふりをして出てくる 。私が正義と聞いたら疑うのはこの
故である 。新聞が税制改革を金持優遇貧乏人いじめだというのは読
者の多くが貧乏だと思っているから 、それに迎合してのことである 。
金持といわれるといやがって 、貧乏人といわれると安心するのは『 進歩的 』
と関係がある 。正直者はバカをみるとといわれて喜ぶのも似たようなメンタ
リテからである 。
百万読者はたいてい貧乏で 、それは正直だからだとこの言葉はいわんばかり
だから喜ばれるのである 。貧乏なのは儲けようとして儲けそこなっただけか
もしれない 。バカをみたのはうまく立回ろうとしてしくじっただけかもしれ
ない 。それをみんな正直のせいにしてくれるから この言葉は耳に快いので
ある 。
サラ金で借金でもしないかぎり 、昔のような貧乏はもうないとみていい 。
金持もまたないとみていい 。あると言いはるのはどこかにあったほうが好都
合だと思うものがまだいるからである 。」
(山本夏彦著「『豆朝日新聞』始末」文春文庫 所収)
「 何度も言うがわが税制は我々の嫉妬心の上に立っている 。
今から十年前二十年前千万円の貯金があるものは持てるもので 、持てるもの
からは奪うのが正義だと気勢をあげていたら 、いつのまにか自分も千万円の
預金の持主になって 、しまったと思うならまだしも今度は一億持つものは持
てるもので 、持てるものから奪うのは正義だと言うのだから 、その根底に
あるのは 際限のない 嫉妬 だと分るのである 。
嫉妬心なら劣情で 、劣情がそのままあらわれるのはさすがに恥ずかしいから 、
それはいつも正義のふりをして出てくる 。私が正義と聞いたら疑うのはこの
故である 。新聞が税制改革を金持優遇貧乏人いじめだというのは読
者の多くが貧乏だと思っているから 、それに迎合してのことである 。
金持といわれるといやがって 、貧乏人といわれると安心するのは『 進歩的 』
と関係がある 。正直者はバカをみるとといわれて喜ぶのも似たようなメンタ
リテからである 。
百万読者はたいてい貧乏で 、それは正直だからだとこの言葉はいわんばかり
だから喜ばれるのである 。貧乏なのは儲けようとして儲けそこなっただけか
もしれない 。バカをみたのはうまく立回ろうとしてしくじっただけかもしれ
ない 。それをみんな正直のせいにしてくれるから この言葉は耳に快いので
ある 。
サラ金で借金でもしないかぎり 、昔のような貧乏はもうないとみていい 。
金持もまたないとみていい 。あると言いはるのはどこかにあったほうが好都
合だと思うものがまだいるからである 。」
(山本夏彦著「『豆朝日新聞』始末」文春文庫 所収)