「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

デモクラシーに二つはない 2007・09・08

2007-09-08 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「大正デモクラシーとは何か、ひと口で言えと言われて私は『口語文』と答えたことがある。大正十年まで新聞記事は全部口語になっていたが、社説だけはえらそうにしたかったのだろう文語文を残していた。それも改めたからこれで全部口語文になった。大正デモクラシーはほかに親不孝が公然と認められたこと、恋愛至上主義、童話童謡の猫なで声、平塚らいてう(雷鳥)のウーマンリブなどだったといえば、なんだ今と同じだと分る。然り、デモクラシーに二つはないのである。
 昭和八年に創業した日本橋高島屋は冷暖房完備と大宣伝して三越を凌ごうとした。エレベーターもエスカレーターも舶来のオティスOTISだった
。」

 「昭和八年はデパートに商品はあふれ、ネオンは輝きバーは満員だった時代で、それは昭和十四年まで続いた。
 満州事変(昭和六年)以後十五年をまっくらだったと言いふらしたのは戦後わがマスコミを支配した左翼文化人である。年中『特高』に監視されていた彼らはさぞまっ暗だったろう。私はあれを『お尋ね者史観』と呼んでいる。一般国民はまさか日米大戦争がおこるなんて思ってもいなかった。一喜一憂して日常生活していること今日(こんにち)と同じだった。大正デモクラシーとは何か何度でも言わなければならないと思っている
。」

 (山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫 所収)
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