「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・09・07

2007-09-07 10:09:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「私は戦争中も飢えなかった。皆さん命のセトギワである、ない知恵をしぼって飢えを凌いで今日(こんにち)ある。即ち近在の農家は売るべき米をかくし持っていた。向田邦子の『父の詫び状』は仙台の父の家は別世界だったと書いていた、主客がたらふく食べかつ飲んでいた。
 仙台がそうなら福島も山形もそうである。困ったのは東京とそれに次ぐ大都会だけだと書くと自分は飢えたと怒ってくる。個人的にはそうだろう、全体はそうでないといくら言っても承知しない。
 骨と皮のウガンダの母子の写真なら見ただろう。飢えとはかくのごときでわが国にそれはなかった。あれは空腹であって飢餓ではなかったというとそれだけは許さぬとおこごとが絶えないのである。」

 (山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫 所収)
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