今日の「お気に入り」は、久世光彦さん(1935-2006)のエッセー「父の影、子の影」より。
「父は、大正のはじめに陸軍士官学校を出て任官した生粋の職業軍人だった。生粋ではあったが、栄達の才のない凡庸の人だった。命じられるままにシベリア出兵に参加し、満州事変に立ち会い、日中戦争では大陸の各地を転戦した末、太平洋戦争の終焉を九州の五島列島で迎えた。いつも人より二、三歩遅れて歩いたその軍歴は、ほぼ三十年である。目を血走らせて荒らぶる武にも馴染めず、かと言って風月を愛する文の人にもなり切れず、驕ることもなかった代りにこれといった武勲もない、つまりは凡庸の人だったわけである。」
(久世光彦著「むかし卓袱台があったころ」ちくま文庫 所収)
「父は、大正のはじめに陸軍士官学校を出て任官した生粋の職業軍人だった。生粋ではあったが、栄達の才のない凡庸の人だった。命じられるままにシベリア出兵に参加し、満州事変に立ち会い、日中戦争では大陸の各地を転戦した末、太平洋戦争の終焉を九州の五島列島で迎えた。いつも人より二、三歩遅れて歩いたその軍歴は、ほぼ三十年である。目を血走らせて荒らぶる武にも馴染めず、かと言って風月を愛する文の人にもなり切れず、驕ることもなかった代りにこれといった武勲もない、つまりは凡庸の人だったわけである。」
(久世光彦著「むかし卓袱台があったころ」ちくま文庫 所収)