2010年度 103冊目
『介護保険は老いを守るか』
沖藤典子 著
岩波書店
岩波新書 新赤版1231
2010年 2
244ページ 840 円
最近本を読んでいてしばし満足のいくものから遠ざかっていたが、昨日の二冊(『歌舞伎のデザイン図典 』『血栓の話―出血から心筋梗塞まで』)以降、運が向いてきたようだ。
『介護保険は老いを守るか』は組織的介護の現実を突きつけられた挑戦状のようにも感じ、恐怖心さえ生じてくる。
著者沖藤典子さんは事実を論理的に展開し,介護に置ける社会的問題点をぐいぐいと書き上げておられる。
そこにはファシズム的発想はなく、事実を知らしめたいとした姿に他ならず、安心し信頼して読むことができる。
一人うがりの押しつけめいたものはなく、この方の公演ならば 素直に聞くができるだろうと思った。
沖藤典子さんは女性だが、男前な性格だった。
それにしても年金問題といい介護保険の問題点といい、安心して歳を重ねていくにはほど遠いのだろうかと考えさせられる。
『これでいいのか、介護保険』『年老いる恐怖』『安心した老後を迎える為に選ぶ選ぶ死』という本はもう出版されている。そんな気さえする切なさよ、なぁ。
内容
二〇〇〇年四月に始まった介護保険制度は、「介護の社会化」「高齢者の自立支援」を進める画期的なものとして歓迎され、今日、約四〇〇万人が利用している。だが、この間、財源論を盾に改悪が続き、緊急の課題も山積み状態。社会保障審議会の委員として議論に加わってきた著者が、利用者の視点に立って徹底検証と具体的提言を行う。
目次
第1章 介護保険はなぜ創設されたのか(介護保険サービスの夜明け;高齢社会の到来と新しい事態;介護の社会化;介護保険サービスの推移)
第2章 介護保険サービスの「適正化」(同居家族と「生活援助」;生活援助利用制限の波紋;なぜ厳しい、外出支援;福祉用具貸与にも「適性化」の嵐;直撃された小規模事業所)
第3章 解決されるか、介護現場の危機(介護で働く人たちの叫び;介護保険施設の新たな課題;ホームヘルパーは「社会の嫁」か;ケアマネジャーの悩みと責任)
第4章 迷走した要介護認定(要介護認定とは何か;衝撃の二〇〇九年版テキスト;経過措置と基準緩和)
第5章 老いを守る介護保険への道(第4期(二〇〇九~一一年度)の介護報酬改定;利用者にとっての介護報酬改定;介護保険一〇年で見えたもの;老いを守る介護保険への道)
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安心できる老後のために、この10年を検証
2000年4月1日、介護保険という制度がスタートしました。衰えた老人の面倒は、家族が看るのが当然―そんな旧来の価値観の下、心身の負担を負わされていた「長男の嫁」、「老老介護」を担う妻や夫をはじめ、様々な立場からの願いがようやく実り、「介護の社会化」が実現したのです。いうまでもなく、急速に進む超高齢社会化という日本の現実が、その背景にありました。
ホームヘルプ、ケアマネジャー、デイケア、ショートステイ……。見慣れぬカタカナ語の洪水に、はじめの頃、当の高齢者らが戸惑ったのは当然ですが、それらも次第に理解され、定着しつつあるといえそうです。今では、約400万人もの人々が、費用の10%負担(他は税45%、保険料45%)で介護保険のサービスを受けているのです。自宅での掃除・洗濯、入浴の介助、施設での数日間のリハビリ等々……。
では、この制度に問題はないのでしょうか? とんでもありません。
この10年を振り返ると、財源難を言い立てる政府によって制度・運用が改悪され、サービス利用が制限され続けた、とさえいえそうなのです。その経緯に、一般利用者の声を反映させるべく社会保障審議会の一員として直接かかわってきた著者が、この間の変化を子細に検証、介護現場の実情もリアルに伝えながら具体的な提言を示します。
最適の著者によるタイムリーな出版。これを一つの手掛かりに、介護保険の今後についての国民的な議論を巻き起こしたいものです。
(新書編集部 坂巻克巳)