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「中将はひどく嘆きて笛を吹き『鹿鳴く声』と独り言いう()」
「山里は秋こそことにわびしけれ鹿鳴く音に眼をさましつつ(古今集)」
「世のうきめ見えぬ山路へ入らんには思ふ人こそほだしなりけれ(古今集)」
「せっかくに憐れみうけて会いたくも『見えぬ山路』と出ていかんとす()」
「あたら夜の月と花とを同じくば心知れらん人に見せばや(後撰集)」
「尼君がいざり出てきて『あたら夜』と必死で止める歌披露して()」
「深き夜の月を哀れと見ぬ人や山の端ちかき宿にとまらぬ(#88)」
「山の端に入るまで月をながめ見んねやのいたまもしるしありとや(#89)」
「大尼が笛の音聞きて感に堪え奥の方から出てきて話す()」
「大尼は孫の娘の婿のこと忘れたるのかそこの人とか()」
「盤渉調見事に吹いて『さあ、琴を』いいて娘にバトンを渡す()」
「大尼は吾妻琴など一通り弾いたものだが僧都が止せと()」
「中将はおだてて弾かす吾妻琴『タケフ、チチリ』と爽やかに弾く()」
「中将は興を醒まして帰る道風にまぎれて笛を奏でる()」
「忘られぬむかしのことも笛竹のつらきふしにも音ぞなかれける(#90)」
「笛の音に昔のこともしのばれてかへりしほども袖ぞぬれにし(#91)」