「孝謙と光明皇后藤原の仲麿宅に行きて歌えり
(天皇スメラミコトと太后オホキサと、共に大納言藤原の家に幸イデマしし日、黄葉モミチせる沢蘭サハアラキ一株ヒトモトを抜き取りて、内侍佐佐貴山君ササキヤマノキミに持たしめ、大納言藤原の卿また陪従ミトモの大夫等マヘツキミタチに遣賜タマへる御歌一首 命婦ヒメトネが誦トナへて曰イへらく)」
「この里は継ぎて霜や置く夏の野に吾が見し草は黄葉ちたりけり(#19.4268)」
「この里は霜が続くか夏の野は吾見た草はすっかり黄葉()」
「(十一月の八日、太上天皇、左大臣橘朝臣の宅イヘに在イマして、肆宴トヨノアカリきこしめす歌四首)」
「よそのみに見つつありしを今日見れば年に忘れず思ほえむかも(1/4 #19.4269 右の一首は、太上天皇の御製)」
「外でのみ邸見てきたが今日からは毎年忘れず思えるでしょう(聖武天皇)」
「葎ムグラはふ賎しき屋戸も大王の座マさむと知らば玉敷かましを(2/4 #19.4270 右の一首は、左大臣橘卿)」
「葎ムグラ這うきたない庭も大王が来るがわかれば玉敷きましたのに(橘諸兄)」
「松陰の清き浜辺に玉敷かば君来まさむか清き浜辺に(3/4 #19.4271 右の一首は、右大弁藤原八束朝臣)」
「松生える清き浜辺に玉敷けば来てくれますか清い浜辺に(八束)」
「天地に足らはし照りて我が大王敷きませばかも楽しき小里ヲサト(4/4 #19.4272 右の一首は、少納言大伴宿禰家持。 未奏。)」
「天地に君臨なさる大王がここにおられて楽しき里サトに(家持)」