子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

2023年春シーズン新作映画レヴューNO.2「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」「逆転のトライアングル」など

2023年04月09日 20時11分53秒 | 映画(新作レヴュー)
「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」
ボウイが生前に残した演奏フッテージや本人のインタビューなどから,ロック・ミュージック史に大きな足跡を残した異型のスターの全貌を描き出そうとする壮大な試み。けれども冒頭に配置され,その後も何度か繰り返して使用される,どこかの異星に取り残された宇宙飛行士のショットが映し出された瞬間に,そのトライは脆くも崩壊する。本作品での言及はないが,一般にボウイというアイコンから連想されるイメージの代表格であるニコラス・ローグ作品「地球に落ちてきた男」に,何の工夫もなく安易に乗っかったディレクションは,長尺の本作の空虚さを見事に象徴している。私自身はさしてファンでもなかったスパークスのバイオグラフィーを,エドガー・ライトが軽快かつ鋭利な構成で見事に構築して目を瞠った「スパークス・ブラザーズ」の爪の垢を,本作の監督は是非とも煎じて飲んで頂きたい。でも笑い過ぎて誤嚥性肺炎にはならないでね。


「ベネデッタ」
「ロボコップ」から「スターシップ・トゥルーパー」そして「ブラックブック」「エルELLE」と,常に観客が求める以上の「過剰さ」と「ショー・ビジネス」が追求する実利とを巧みに折衷させてきたポール・ヴァーホーベン監督が作り上げた中世の修道女残酷物語。生存欲求と等価に置かれたセックス,権威主義への反発,人間が備える人格的な二重底といったヴァーホーベン好みの材料が,修道院の暗闇でじっくりと混ぜ合わされる様を,壁に開けた穴から覗き見るような楽しさが横溢する。主演女優の強いまなざしが如何にもヴァーホーベン作品のヒロインに相応しい強さを湛える一方で,こういう役を嬉々として演じるシャーロット・ランプリングの大人の余裕にも感服。
★★★★

「逆転のトライアングル」
観る人を居心地悪くさせる技術では人後に落ちないスウェーデン人の監督リューベン・オストルンドが,フライヤーにある通り「まさかの」2作連続でパルムドールを受賞した作品。大好きな監督ではあるのだが,カンヌに愛された「巨匠」という重い鎧が,オストルンドのフットワークを蝕んでしまったのは確実のようだ。下品な笑いや社会を皮肉る描写に翳りはないものの,アクシデントが招く格差・地位の逆転というプロット自体が手垢が付いたものという印象を免れなかった。ヤング・セレブも金にはせこい,という第1部も,唯一顔の売れた俳優ウディ・ハレルソンが見せ場もないままに退場するというキャスティングにおける逆転劇も,決して悪くはないのだが,「フレンチアルプスで起きたこと」が描き出した新鮮な「気まずさ」を思い出してしまうと,点は辛くなってしまわざるを得ない。
★★★

「妖怪の孫」
作中映し出される故安倍元首相の家族写真の中で,元首相の母があまりにも実父である岸信介にそっくりで,思わず「タイトルに偽りなし」と深く頷いてしまった。銃撃されて亡くなった元首相の最長政権を,複数の視点や証言によって検証するドキュメンタリーだが,同じスタッフが制作した「パンケーキを毒見する」の,社会情勢に鑑みればよく制作に踏み切ったとは言え,お世辞にもその勇気と意欲が作品レヴェルに比例していたとは言い難かった出来に比べると,遥かに地に足の付いた内容で,緩むところはない。制作陣の好みなのか,またもやアニメーションが寓話的に使用されているが,安直な感じは大分薄らいでいる。高市議員の憲法解釈の滅茶苦茶さが浮き彫りになる終盤の展開も,実にタイムリー。足りなかったのは「こんな政治が何故かくも(党内は勿論,社会の多くの)人々から支持され続けてきたのか」という点を,選挙の強さ,という視点以外から解きほぐすことだったのではないだろうか。公開2週目でもまだ満席。年齢層はほぼシルヴァー一択だったけれども。
★★★


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