子供はかまってくれない

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映画「ある少年の告白」:今も続くアメリカの闇を照らし出す映画人の矜持

2019年04月27日 21時44分19秒 | 映画(新作レヴュー)
監督デビュー作が好評を博したジョエル・エドガートンにレッド・ホット・チリ・ペッパーズのオリジナルメンバーのひとりであるフリー,そしてグザヴィエ・ドラン。ガラルド・コンリーが書いた体験記を映画化するにあたって結集したこのメンツだけを見ても,相当に不穏な気配が漂ってくる「ある少年の告白」は,想像以上に骨太の骨格を持つ人間ドラマだった。メジャーとマイナーの境界で,こうした題材をストレートに映画化できる環境はやはりアメリカならでは,と敬意を表したい。

牧師の父と美しい母に育てられ,高校時代をバスケット選手として過ごし,迫るガールフレンドを振って大学に進学したジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)。しかし両親にゲイであることを告げたことにより,ジャレッドの運命は狂い出す。父がジャレッドを送り込んだのは,同性愛は矯正することが可能,と信じて,科学的根拠のないプログラムを実践する施設だった。そのプログラムが示す狭いレーンからはみ出たものの中には死を選ぶものさえあった。そんな施設の中で追い詰められたジャレッドは,生き残るために母に最後のSOSを送る。

LGBTQを矯正が必要な者,性的指向を「直す」ことが可能なものとみなし,対象者に教育プログラムを施す施設がアメリカ各地に存在していた,という事実にまず驚かされる。原作は1985年生まれの著者が19歳の時の体験を綴ったもの。ということは,ここに描かれる「矯正」はたかだか15年程前の出来事だということ,更にエンディングに流れる説明で,この矯正施設による「犠牲者」が70万人に及ぶことを知り,人種差別と同根の偏見が地下深いところに存在しているアメリカ社会の病巣が,見事なまでにえぐり出される。その刃は,アメリカのみならず,間違いなく我が国の「普通」の家庭にも届く,長さと鋭さを内包している。

前述した出演者は勿論,愛情と世間体と自らの偏見の狭間で悩む家族を主人公役のヘッジズ,そして両親を演じるラッセル・クロウとニコール・キッドマンが,老練な演技で立体化している。演じる度にどこまで美しくなるのか,と思わせるキッドマンは勿論,エンドロール前に写される実在のコンリーの父親に生き写しのクロウは,キャスティング段階で勝負ありか。

だが見事なドラマ以上にあっと驚かされるのが,前述したエンディングの前に映し出される実在の出演者たちのその後。エドガートンが演じた施設の教師役の今を知って,改めて最初から見直したくなる人もいるはず。最後まで画面から目を離さぬように。
★★★★
(★★★★★が最高)


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