子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ディス/コネクト」:「ナッシュビル」タイプの作品の新しい到達点

2014年05月25日 12時07分10秒 | 映画(新作レヴュー)
一見脈絡のない複数の物語が並行して語られ,それらがやがて縒り合わされてクライマックスを迎える。
「ディス/コネクト」は,ロバート・アルトマンが「ナッシュビル」や「ウェディング」,「ショート・カッツ」で範を示し,ポール・トーマス=アンダーソンの「マグノリア」や,ポール・ハギスの「クラッシュ」などの作品群に受け継がれてきた「マルチ・ストーリー」タイプ(宣材によれば「多層ドラマ」)の歴史に,輝かしき一歩を刻む秀作だ。

オタクっぽい少年をからかう目的で,SNS上でなりすましを行う二人の少年。冷えた夫婦関係の隙間を埋めるためのチャットが原因で,個人情報を盗まれ預金を引き出されてしまった夫婦。ポルノサイトで金を稼ぐ少年を取材しようとするTVレポーター。
インターネットというメディアが,それを使う人間の家族関係や野心,ひいては彼らが立っている場所の危うさを暴き出すツールとして実に効果的に使われているが,ネット社会の怖さはあくまで物語のトリガーとして機能させるに留めているところが,成功の鍵だ。スリラーとしてのフレームを保持しているのは,いずれのエピソードも「ほんの出来心」や「好奇心」でも,やがて人間の運命を左右する可能性を持っているという,いつの時代にもある普遍的な教訓なのだ。

監督のヘンリー=アレックス・ルビンは,車椅子ラグビーを扱ったドキュメンタリー作品「マーダーボール」で共同監督を務め,アカデミー賞にノミネートされた経歴の持ち主ということだが,脚本を手掛けたアンドリュー・スターンとのコンビネーションはとてつもなく強力でありながら,何度も振り返って咀嚼したくなるような繊細さに満ちている。
3つのエピソードの繋がり方を,一定の必然性を持たせながらも,あえてあざとさを排して緩やかなものとした節度も光る。

俳優陣では,クライマックスで少年が住む世界と自分の居場所との違いを否定できない苦渋を巧みに表現したアンドレア・ライズブローの輝くような美しさと,映画初出演且つ少ない出番ながらも苦み走ったヴェテランのような演技を見せたマーク・ジェイコブスの存在感が後を引く。
予期せぬところから突然現れた鋭い鋒に急所を突かれるような衝撃と,温かい希望とが同居するような物語は,ネットにはまる人々にこそ観て欲しい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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