近所に住む仲の良い家族の二人の女の子が,突然姿を消す。失踪直前に見かけたキャンピングカーを運転していた男が警察から聴取を受けるが,証拠不十分で釈放される。その男が怪しいと睨んだ少女の父親(ヒュー・ジャックマン)は,男から自白を引き出そうと,独力で男を拉致して拷問にかけるという挙に出る。そんな時,血塗れの少女の衣服を持っていた別の男が逮捕される。
「灼熱の魂」でアカデミー賞外国語映画賞の候補となったカナダ人のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作は,そんなシンプルな筋立てながら,極限状態に追い込まれた人間の姿を生々しく描いて,スリラーの醍醐味を存分に堪能させてくれる。
ここでのヒュー・ジャックマンは,狼男に変身こそしないものの,子の安否に身を裂かれんばかりに悶え苦しみ,全編でほとんど「変身」に近いハイテンションな状態に置かれた男を見事に演じて見せる。
そんな親としての本能のままに動き続けるジャックマンの演技を受けるのは,これまで手掛けた事件をすべて解決してきた刑事の,プロとしての矜持を静かに全身で表現するジェイク・ギレンホールだ。
この二人をいわばエースと4番打者として,彼らの脇を固める役者もマリア・ベロ,テレンス・ハワード,ヴィオラ・デイヴィス,ポール・ダノと芸達者が揃って好演を見せるが,中でも終盤で物語をさらってしまうメリッサ・レオの諦念と憎悪に彩られた狂気が突出した印象を残す。
雨に濡れる舗道や夜の追跡劇を鮮やかに捉えたキャメラマンは,現代最高の名手と言っても異論はないだろうロジャー・ディーキンス。
謎解きの面白さの中に人間の孤独と家族の絆を浮かび上がらせた脚本と絵,それに俳優たちの素晴らしい演技を,巧みにまとめ上げた編集は,クリント・イーストウッド組の親分格ジョエル・コックスだ。その腕は,微かに聞こえるホイッスルの音を刑事が聴き取る瞬間を捉えて,深い余韻を残すラストシーンで最高潮に発揮される。
2時間45分という長尺の作品ながら,一瞬たりとも間然することなく,観客をスクリーンに釘付けにし,かつ震わせ続けたことで,ヴィルヌーヴが類い希なる「繊細な豪腕」であることは証明されたと言って良いだろう。
目下のところ,今年一番の驚きだ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
「灼熱の魂」でアカデミー賞外国語映画賞の候補となったカナダ人のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作は,そんなシンプルな筋立てながら,極限状態に追い込まれた人間の姿を生々しく描いて,スリラーの醍醐味を存分に堪能させてくれる。
ここでのヒュー・ジャックマンは,狼男に変身こそしないものの,子の安否に身を裂かれんばかりに悶え苦しみ,全編でほとんど「変身」に近いハイテンションな状態に置かれた男を見事に演じて見せる。
そんな親としての本能のままに動き続けるジャックマンの演技を受けるのは,これまで手掛けた事件をすべて解決してきた刑事の,プロとしての矜持を静かに全身で表現するジェイク・ギレンホールだ。
この二人をいわばエースと4番打者として,彼らの脇を固める役者もマリア・ベロ,テレンス・ハワード,ヴィオラ・デイヴィス,ポール・ダノと芸達者が揃って好演を見せるが,中でも終盤で物語をさらってしまうメリッサ・レオの諦念と憎悪に彩られた狂気が突出した印象を残す。
雨に濡れる舗道や夜の追跡劇を鮮やかに捉えたキャメラマンは,現代最高の名手と言っても異論はないだろうロジャー・ディーキンス。
謎解きの面白さの中に人間の孤独と家族の絆を浮かび上がらせた脚本と絵,それに俳優たちの素晴らしい演技を,巧みにまとめ上げた編集は,クリント・イーストウッド組の親分格ジョエル・コックスだ。その腕は,微かに聞こえるホイッスルの音を刑事が聴き取る瞬間を捉えて,深い余韻を残すラストシーンで最高潮に発揮される。
2時間45分という長尺の作品ながら,一瞬たりとも間然することなく,観客をスクリーンに釘付けにし,かつ震わせ続けたことで,ヴィルヌーヴが類い希なる「繊細な豪腕」であることは証明されたと言って良いだろう。
目下のところ,今年一番の驚きだ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)