この春,同一名義による「ベースメント・テイプス」と共に,ライヴ盤「Before The Flood(邦題:偉大なる復活)」のデジタル・リマスター盤が発売された。
今はなき札幌のロック喫茶「異間人」で,紫煙漂う空間に弾ける音に聞き入っていた高校生時代を思い出しつつ聴いているのだが,35年を経て聴き直した印象はとにかく「熱い!」の一言だ。
邦題が示す「復活」とは,ボブ・ディランが1966年7月に起こしたオートバイ事故以来,レコーディングを除けばほぼ隠遁と言っても良いような状況にあった8年を経て,1974年に全米ツアーを行ったことに由来している。
ザ・バンドのデビューに先立って,ウッドストックで私的な録音を繰り返していた1966年頃に比べると,1974年という年には既にザ・バンドは批評家筋からは最高のロックンロール・バンドという評価を得て円熟期=安定期に入っていたことが逆にお気に召さなかったのか,一般的にディランはこのツアーとアルバムを気に入っていない,というのが通説になっている。
しかし,8年振りのツアーがディランにもたらした興奮と,バックバンドから共演者という立ち位置にまで上り詰めたザ・バンドの歓びは,そんな皮相的な噂を,リック・ダンコの正にステージの端から端まで駆け巡るようなベースのフレーズ一発で吹き飛ばしてしまっている。
「渋い」が定評になっていたロビー・ロバートソンは,「All Along The Watchtower」では得意のハーモニックスによって尋常ならざる切迫感を演出したかと思えば,これまで見せたことがないような躁状態に入り込んで「Endless Highway」のソロを弾きまくる。
レヴォン・ヘルムのドラムスは全体的なバランスを無視してひたすら手数を繰り出し,ガース・ハドソンのオルガンは最早伴奏というポジションを捨てて,ロビーと張り合う。
唯一,「The Shape I'm In」で速いテンポに負けじと必死にキーを上げるリチャード・マニュエルだけが,お祭りに乗り遅れまいと頑張る必死さを感じさせているのが,哀切極まりない。
そして主役のディランは,ソロでもザ・バンドとの共演でも,もの凄い熱量を提示し続ける。ここで見せるエネルギーは,どう見ても雌伏8年で溜まったマグマの噴出という感じなのだが,特筆すべきは声の通りの素晴らしさだ。往年の嗄れた声の迫力も格別だが,ここで聴かせる声が持つ清冽と言っても良い(らしくないと言えば言えるのかもしれないが…)響きは,これに続くローリング・サンダー・レビューや「激しい雨」の時のものに匹敵する。凡百のパンク・ロッカーは,「Like A Rolling Stone」を前にしては,裸足で逃げ出すしかないはずだ。
ウィキペディアには「孫の通うロサンゼルス郊外の幼稚園で演奏したところ、子供たちは家に帰って親に“変なおじさんが来て、ギターで怖い曲を歌った”と報告したそうである」というエピソードが載っていたが,ノーベル文学賞が取れるかどうかはともかく,新譜の「Together Through Life」で聴かせたテックス・メックス風味の新しいディラン共々,本当に滋味が尽きない世界一「変なおじさん」であることは間違いない。
今はなき札幌のロック喫茶「異間人」で,紫煙漂う空間に弾ける音に聞き入っていた高校生時代を思い出しつつ聴いているのだが,35年を経て聴き直した印象はとにかく「熱い!」の一言だ。
邦題が示す「復活」とは,ボブ・ディランが1966年7月に起こしたオートバイ事故以来,レコーディングを除けばほぼ隠遁と言っても良いような状況にあった8年を経て,1974年に全米ツアーを行ったことに由来している。
ザ・バンドのデビューに先立って,ウッドストックで私的な録音を繰り返していた1966年頃に比べると,1974年という年には既にザ・バンドは批評家筋からは最高のロックンロール・バンドという評価を得て円熟期=安定期に入っていたことが逆にお気に召さなかったのか,一般的にディランはこのツアーとアルバムを気に入っていない,というのが通説になっている。
しかし,8年振りのツアーがディランにもたらした興奮と,バックバンドから共演者という立ち位置にまで上り詰めたザ・バンドの歓びは,そんな皮相的な噂を,リック・ダンコの正にステージの端から端まで駆け巡るようなベースのフレーズ一発で吹き飛ばしてしまっている。
「渋い」が定評になっていたロビー・ロバートソンは,「All Along The Watchtower」では得意のハーモニックスによって尋常ならざる切迫感を演出したかと思えば,これまで見せたことがないような躁状態に入り込んで「Endless Highway」のソロを弾きまくる。
レヴォン・ヘルムのドラムスは全体的なバランスを無視してひたすら手数を繰り出し,ガース・ハドソンのオルガンは最早伴奏というポジションを捨てて,ロビーと張り合う。
唯一,「The Shape I'm In」で速いテンポに負けじと必死にキーを上げるリチャード・マニュエルだけが,お祭りに乗り遅れまいと頑張る必死さを感じさせているのが,哀切極まりない。
そして主役のディランは,ソロでもザ・バンドとの共演でも,もの凄い熱量を提示し続ける。ここで見せるエネルギーは,どう見ても雌伏8年で溜まったマグマの噴出という感じなのだが,特筆すべきは声の通りの素晴らしさだ。往年の嗄れた声の迫力も格別だが,ここで聴かせる声が持つ清冽と言っても良い(らしくないと言えば言えるのかもしれないが…)響きは,これに続くローリング・サンダー・レビューや「激しい雨」の時のものに匹敵する。凡百のパンク・ロッカーは,「Like A Rolling Stone」を前にしては,裸足で逃げ出すしかないはずだ。
ウィキペディアには「孫の通うロサンゼルス郊外の幼稚園で演奏したところ、子供たちは家に帰って親に“変なおじさんが来て、ギターで怖い曲を歌った”と報告したそうである」というエピソードが載っていたが,ノーベル文学賞が取れるかどうかはともかく,新譜の「Together Through Life」で聴かせたテックス・メックス風味の新しいディラン共々,本当に滋味が尽きない世界一「変なおじさん」であることは間違いない。