古くは「男はつらいよ」という素晴らしい成功例がありながら,ここ数年は単なるビジネス・アイテムとして容器だけを取り繕った,抜け殻のような作品ばかりが目に付くTVドラマの映画化作品群にあって,「ハゲタカ」はきちんと「映画」として自立している,という一点だけを取っても評価に値する作品になっていた。
「映画としての自立」を担保するための最低の条件とは,観客を2時間(本作は134分)という時間,TVドラマ独自のペースに囚われずにスクリーンを凝視させるに足る独自の物語を持ち,「性格」を与えられ,考え,感じる人間が物語を動かすということだと私は思っているのだが,本作での鷲津(大森南朋)の復活劇は充分にそれをクリアしている。本作と同じく,ほんの少しだけ海外ロケをした「HERO」とは,全く次元を異にする秀作だ。
ただ物語自体は映画のオリジナルとは言え,ほぼ全員がTV版からの連続登板となっている登場人物の紹介が殆ど省略されているため,TV版を観ていない観客は多少人物の設定や相関関係に戸惑う部分があるだろう。
また,TV版では鷲津と対決する企業側の代理人として主役を張っていた芝野(柴田恭兵)は,映画版では鷲津のバックアップ役に廻ってしまい,まるで見せ場がない。
更にTVキャスターの三島(栗山千明)は,自分の過去と搾取され続ける派遣労働者の問題を重ね合わせることによって問題の核心に迫ろうとするが,物語の展開には上手く絡んでいない。
こうした事柄から窺えるのは,映画版の脚本は,集団劇としてのダイナミズムを捨てるところから,物語の芯を構築しているということだ。
鷲津と劉(玉山鉄二)の対決を軸にして,他の登場人物を全てセコンド扱いにすること。
TVでは6時間(1回1時間×6回)をかけて描いたひとつのドラマを,2時間14分という尺とスクリーンというフォーマットに移植する際に脚本家林宏司が下した判断は,企業乗っ取りという複雑な経済ドラマに,緊迫感と生身の人間の苦悩を盛り込むという形で結実している。TV版のファンの思い入れを断ち切る英断は,成功したのだ。
玉山鉄二は格好良いが,やや一本調子で奥の深さには欠ける。その替わりに,過去の栄光にすがるだけで経営判断を誤り,やがて破滅していく経営者に扮した遠藤憲一の凋落振りは,正に鬼気迫るものだ。
「セコンド」陣の中では,松田龍平の飄々とした佇まいが画面を締めている。
ところどころに,「映画版」という意識が過剰になっている場面(鷲津に決め台詞を3度続けて言わせるクライマックスには腰が砕けた…)が散見されるが,映画監督としての大友啓史のデビューは見事なものとなった。何チャンネルとは言わないが,映画化大好き放送局の制作陣も感心していると良いのだが。
★★★☆
「映画としての自立」を担保するための最低の条件とは,観客を2時間(本作は134分)という時間,TVドラマ独自のペースに囚われずにスクリーンを凝視させるに足る独自の物語を持ち,「性格」を与えられ,考え,感じる人間が物語を動かすということだと私は思っているのだが,本作での鷲津(大森南朋)の復活劇は充分にそれをクリアしている。本作と同じく,ほんの少しだけ海外ロケをした「HERO」とは,全く次元を異にする秀作だ。
ただ物語自体は映画のオリジナルとは言え,ほぼ全員がTV版からの連続登板となっている登場人物の紹介が殆ど省略されているため,TV版を観ていない観客は多少人物の設定や相関関係に戸惑う部分があるだろう。
また,TV版では鷲津と対決する企業側の代理人として主役を張っていた芝野(柴田恭兵)は,映画版では鷲津のバックアップ役に廻ってしまい,まるで見せ場がない。
更にTVキャスターの三島(栗山千明)は,自分の過去と搾取され続ける派遣労働者の問題を重ね合わせることによって問題の核心に迫ろうとするが,物語の展開には上手く絡んでいない。
こうした事柄から窺えるのは,映画版の脚本は,集団劇としてのダイナミズムを捨てるところから,物語の芯を構築しているということだ。
鷲津と劉(玉山鉄二)の対決を軸にして,他の登場人物を全てセコンド扱いにすること。
TVでは6時間(1回1時間×6回)をかけて描いたひとつのドラマを,2時間14分という尺とスクリーンというフォーマットに移植する際に脚本家林宏司が下した判断は,企業乗っ取りという複雑な経済ドラマに,緊迫感と生身の人間の苦悩を盛り込むという形で結実している。TV版のファンの思い入れを断ち切る英断は,成功したのだ。
玉山鉄二は格好良いが,やや一本調子で奥の深さには欠ける。その替わりに,過去の栄光にすがるだけで経営判断を誤り,やがて破滅していく経営者に扮した遠藤憲一の凋落振りは,正に鬼気迫るものだ。
「セコンド」陣の中では,松田龍平の飄々とした佇まいが画面を締めている。
ところどころに,「映画版」という意識が過剰になっている場面(鷲津に決め台詞を3度続けて言わせるクライマックスには腰が砕けた…)が散見されるが,映画監督としての大友啓史のデビューは見事なものとなった。何チャンネルとは言わないが,映画化大好き放送局の制作陣も感心していると良いのだが。
★★★☆