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映画「ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ,そして愛された男」:題名に偽りあり

シネコンが定着する遙か前から複数スクリーンで営業してきた札幌の老舗映画館であるスガイ・ディノスのチケット売り場で入場券を買って,ひとつ上の階にある劇場に向かって歩いていると,後から来た老齢の男性がチケット売り場の女性にかなり大きめの声で話し掛けているのが聞こえてきた。「この時間ですぐに観られる映画は何だろ?」これに応えて売り場の女性は「これからですと『ロバート・アルトマン』が5分後に始まりますが…」と返すと,その男性はすかさず「その何とかマンというのは,面白いのかねぇ?」と再度質問した。「まずいぞ,これは。男性的には完全に『アイアンマン』の流れになってしまっている。どう答えるのか?」と思って足を止めて聞いていたのだが,聞こえてきたのは女性の苦笑まじりの「面白いか?と訊かれましても…」という消え入るような小声のみ。あきらめて階段で上の階に上がり,劇場の椅子に座っていると,斜め前に先程の男性が座った。「アイアンマン」ではないので,「アルトマン」は空を飛びませんよ,と忠告しようと思ったのだが,やがて予告編が始まったのでおせっかいはやめた。
果たして,上映開始後1時間弱経った辺りでその男性は席を立ち,二度と戻ってくることはなかった。やっぱり忠告しておけばよかったかな。

映画の中でポーリン・ケイルが「ギャンブラー」を撮ったアルトマンを「アメリカにおけるベルイマンやフェリーニのような存在」と評価する場面が出てくる。私は「アルトマン」という名前が世評に上る頻度が増えた「ザ・プレイヤー」以降の晩年の作品群よりも,1970年代初頭の「M★A★S★H」から「ナッシュビル」に連なる作品群に魅せられているファンの一人なので,容赦ない酷評で知られるケイル女史のこの埋もれた初期作品に対する高い評価を知ってとても嬉しかった。
だがその一方で,ドキュメンタリーとしての本作を評価すると,副題にある「ハリウッドに最も嫌われ」という形容に対応するパートが全くないことに代表されるように,時系列的に作品を並べて撮影時のフッテージを挟み込んでいくだけ,というアイデアも工夫もない内容に呆れる。

勿論,アルトマンの熱烈なファンならば,綺羅星のようなフィルモグラフィを眺めて巨星が辿った道程を振り返るだけでも,作品が創られた価値を認めるだろう。
けれどもドキュメンタリーというのは,基本的に題材から距離がある,もしくはその存在すらまったく知らない人間(例えば待ち合わせまでの時間潰しに来た老齢の男性のような)をも巻き込むようなパワーやトラップがなければ優れた作品とは言えない。監督のロン・マンさんには原一男の「ゆきゆきて神軍」を観て,再度挑戦されるよう勧めたい。
★★
(★★★★★が最高)
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