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映画「IT/イット ”それ"が見えたら,終わり。」:鉱脈を掘り当てた勘と技術

スティーヴン・キングの「IT」。30年以上前に発刊され,キングの数多ある小説の中でも最高傑作とする声が多い作品だが,映像化はこれまでテレビのミニシリーズがあったのみで,劇場用の映画化はアンディ・ムスキエティのメガホンによる本作が初めてとのこと。ムスキエティはギジェルモ・デル=トロ制作の「MAMA」でデビューした若手ということだが,本作を観るまではまったく知らず,特に食指も動かなかったのだが,全米でホラー映画の動員記録を塗り替えたというニュースを聞いて慌てて劇場に駆け付けた。ところが札幌で唯一上映しているシネコン,シネマフロンティアの昼間の回は公開翌週から2週続けて「満員札止め」。日頃観る映画がお客さんの入らない作品ばかりになりがちで,その結果上映開始直前に劇場に行くのが習い性になってしまった私の行き当たりばったりな行動のせいで,結果的に2週間待たされてようやく観ることができた「IT」は,若いホラー好きの鑑賞眼の確かさを証明するような,見事な娯楽作品だった。

原作は主人公の少年たちと,町の古い屋敷に棲息しているピエロ(クラウン)の怪物との対決を,少年期と成人してからの2度に亘って描く長編なのだが,本作はラストの字幕で「第1章」と表示されるとおり,少年期のエピソードに絞って描く形式を選択している。もしもコケたら続編は制作されなかったかもしれず,その結果「第2章」のない「第1章」のみのシリーズ作品という,間抜けなフィニッシュを迎えていたかもしれないギャンブルに,ムスキエティは見事に勝利したと言える(続編は再来年9月公開予定とのこと)。

物語を少年期のみにフォーカスしたことによって,全体的に原作にもあったジュブナイル小説としての甘酸っぱさが前面に出た結果,それが凄惨なホラー要素のショックを和らげるクッションのような機能を果たしているのが,成功した要素の一つとなっている。感受性の豊かな主人公と愚鈍だけれども文学好きな少年との間で揺れるヒロイン(少しだけモリー・リングウォルドを想起させる)が,実は父親から性的虐待を受けているらしいということを暗示させるシークエンスを筆頭に,少年たち7人全員の出自をコンパクトかつ余韻豊かに描き出すムスキエティの手腕は,信じられないほど巧みだ。

勿論その巧みな演出力は恐怖シーンにも発揮される。小説を読んだときに想像したとおりの絵が展開される冒頭の排水口から顔を出すピエロのシーンは勿論,壁から落ちた絵から,そこに描かれていた歪んだ顔の人間が抜け出して実体化するシーン,そしてウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」をも想起させるラストの悪夢のようなパノラマまで,キング信者ならずとも興奮は最後まで途切れないだろう。
「ブレードランナー」の続編にやや首を傾げた私にとっては,今や「スター・ウォーズⅧ」よりも「IT第2章」の方が待ち遠しい。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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