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映画「ソウル・ガールズ」:スタイルや小手先のテクニックを踏み越える逞しき愛らしさ

オーストラリアがヴェトナム戦争に参戦していたという史実を知らなかった私の無知をさらけ出すのは誠に恥ずかしい限りだが,まさかアボリジニのコーラスグループが,アメリカのソウル・ミュージックを引っ提げて,戦火飛び交う戦場のど真ん中へ慰問に訪れていたとは。
史実に基づいて制作された「ソウル・ガールズ」は,そんな私の狭い了見や小さな常識の枠を越え,音楽の力を推進力として軽々と海を飛び越えるエネルギーに満ちた作品だ。

カントリーでオーディションに臨みながら,マネージャーを買って出たブローカーみたいな男を信じてR&Bに鞍替えする,「音楽映画」としてみた時には最も大事なシークエンスが,拍子抜けするほど薄味。
大半の舞台となるヴェトナム(戦争)におけるオーストラリアの立ち位置が不明確の上,そもそも命を賭して金儲けに打って出る彼女たちの戦争に対するスタンスには,ほとんど言及しない。
アボリジニ故に,過酷な人種差別に立ち向かわなければならなかった筈の,彼女たちの内面的な葛藤に関する描写も極めてステレオタイプ。
欠点をあげつらえば,幾らでも挙げられるのに,鑑賞後の印象は実に爽やかで心地よい。登場人物の子孫が関わったシナリオには,とてつもなく勇敢で,音楽の力だけを武器に窮地を乗り切った先達への愛情と尊敬が満ち溢れている。

言ってみれば,けっして美人ではなく,極めてフィジカルではあるけれども取り立ててセクシーとは言えない,4人のヒロインのパワフルなフェロモンをこそ,美しいハーモニーと一緒にひたすらスクリーンから浴びるための作品なのかもしれない。
時を置かずに観た「バックステージの歌姫たち」に出てくるシンガーたちの,世界をグリップしようとする力の強さと共通するパワーに,気持ち良く平手打ちされて劇場を後にした真冬日。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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