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映画「アメリカン・ハッスル」:ネタの宝庫,それは’70年代

鏡を見ながら寂しくなった頭皮に接着剤を使って細工をする,太鼓腹の中年男。よく見れば,己の立ち位置に悩み傷付いたヒーロー,「ダークナイト」シリーズのクリスチャン・ベイルその人ではないか。
身支度を調える彼をハゲ増す,いや励ますかのようにバックにかかる音楽が,アメリカの「名前のない馬」から,スティーリー・ダンの「ダーティー・ワーク」に切り替わった瞬間,「アメリカン・ハッスル」のギアはトップに入り,そのままゴールに向けて突っ走る。昨年のアカデミー賞ウィナーの「アルゴ」にあやかった訳でもないのだろうが,同じく1970年代の実話に材を得たデヴィッド・O・ラッセルの新作は,5人の名優プラスワンの,目も醒めるような演技合戦が楽しめる傑作だ。

愛人のシドニー(エイミー・アダムス)とタッグを組んで融資詐欺を続けていたアーヴィン(ベイル)が,FBI捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)に尻尾を掴まれるが,自由放免と引き換えにギャンブル汚職の捜査への協力を求められ,アトランティック・シティの市長(ジェレミー・レナー)に近付いて行く。
冒頭のシドニーのヘアースタイル偽装から始まって,クライマックスに据えられた弁護士事務所のくだりまで,あらゆるエピソードが真実と虚飾の境界でヴィヴイッドに躍動している。
たったワンシーンの出演で場面をさらうロバート・デ・ニーロを除いて,根っからの悪人も善人もいない代わりに,全員が脛に持つ傷のグラデーションを競い合うかのような渋い演技合戦は,練られた脚本の更に上を行く驚きと楽しさに満ちている。

中でも先に記したデニーロが,FBI職員が扮したアラブの富豪にアラビア語で詰め寄るシーンの緊迫感と,アーヴィンの妻(ジェニファー・ローレンス)とシドニーが対峙したシーンで,シドニーが取った意表を突く行動の鮮やかさは,全体を占めるコメディ調の空気を一瞬で変えるインパクトで,観客のハートを鷲掴みにする。
芳醇なコン・ゲームが,アカデミー賞の投票権を持つ関係者までをも「騙せる」かどうかはさておき,ラッセルが絶好調を持続していることは疑いのない事実だ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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