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映画「サイド・エフェクト」:ソダーバーグ最後の劇場用作品が,本当にこれで良いのか?

2013年10月13日 09時59分12秒 | 映画(新作レヴュー)
およそ四半世紀前「セックスと嘘とビデオテープ」という,前売り券を買いに行く時に口籠もってしまったタイトルを持った作品でデビューしたスティーヴン・ソダーバーグが,この作品をもって劇場用映画制作から身を退くという。
宮崎駿やリュック・ベッソンなどの先達の例にもある通り,映画監督が「これが最後の作品」と言いながらも新たに作品を発表することは良くあることだと思うが,ソダーバーグの場合は創作活動からの引退ではなく,テレビに活躍の場を移すということなので,信憑性は高いかもしれない。
肝心の作品の方は,薬品業界を舞台にしたスリラーでキャサリン・ゼタ=ジョーンズが出演する,という事前情報から,彼のキャリアのピークのひとつである「トラフィック」のような作品をイメージしたのだが,残念ながらスケールも緊張感も「トラフィック」には全く及ばない,凡作と呼ぶしかない出来に留まっている。

犯罪の規模が,必ずしも観客の驚きや満足度に比例しないことは,宣材で言及されているヒッチコック作品を観れば明らかだ。日常生活のささいな出来事に加えられた捻りひとつでも,それが人々の常識や一般的な価値観を揺さぶるようなものでありさえすれば,スリラーとしての存在意義は充分にある。
過去の作品でそんな揺さぶりを何度も仕掛けてきたはずのソダーバーグだが,最後の企みはエネルギーとアイデアを失ってしまい,あまりにもありきたりな展開で観客を失望させる。
これでは驚きの質量ともに,同じ詐病を扱ったジェフリー・ディーヴァーの短編に遠く及ばない。

「コンテイジョン」でソダーバーグの世界観にはまったジュード・ロウも,女優ふたりの間であたふたする姿にリアリティを持たせるレベルに留まっている。キャリアに載せるに値する演技を見せたのは,ルーニー・マーラのみで,途中であっさりと退場してしまうチャニング・テイタムにも,見せ場不足で欲求不満な表情だけが物語にフィットしているジョーンズにも,輝きを見せる瞬間は訪れない。
ワシントン・ポストの「幕引きにふさわしい完璧な一作」という評が,むなしく響く。本当にこれで良いのか,ソダーバーグ?と誰か尋ねてくれないものか。
★★☆
(★★★★★が最高)


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