子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

2021年春シーズン:映画レヴューまとめて5作品「まともじゃないのは君も一緒」ほか

2021年04月17日 20時18分55秒 | 映画(新作レヴュー)
「まともじゃないのは君も一緒」
朝ドラ「おちょやん」では一向に輝けない成田凌。しかし本作では清原果耶のサポートを得て理系偏屈青年をのびのびと演じて楽しめる。絶賛されている杉咲花の良さがまったく分からない私だが,次の朝ドラのヒロインに選ばれた清原が,まさにこれぞスクリューボール・コメディと言えるテンポ感で物語を前に進める力には舌を巻いた。映画ではまったくその良さが出せなかった坂元裕二の「花束みたいな恋をした」が,その内容に反して空前の大ヒットを飛ばしたのに比べると,中身のないトレンドに乗れない人々を励ましつつその悲哀を笑い飛ばすパワーに満ちた本作が,興行的には憤死に近い結果に終わったのは,皮肉にも本作のテーマが正しかったことの証明になってしまったようだ。けれども春の邦画の思いがけない収穫であることは間違いない。
★★★★

「野球少女」
「野球狂の詩」から「がんばれベアーズ」,「プリティ・リーグ」まで,女性が主人公の「野球映画」は結構の数が制作されており,娯楽映画として一定の水準を超える出来映えのものも多い。けれども「女子高校生野球選手」として話題となった少女を主人公に据え,プロ野球球団への入団を目指して苦闘する姿を描いた韓国映画「野球少女」は,そういった系列に入る「野球映画」とは言えないだろう。一応プロ球団の入団テストがクライマックスにはなっているが,野球に関するシークエンスは一つのプロットとして機能するのみで,全編を貫くのは「女性にプロ野球は無理」という一般社会の常識に素朴な疑問を投げかけ,あきらめずに挑戦する少女の闘い。どこかの国の元政治家が観たら「女と呼ぶにはわきまえがなさ過ぎる」と言うに違いない主人公を演じたイ・ジュヨンのまなざしが,強い印象を残す。
★★★

「ミス・フランスになりたい!」
「野球少女」と位相は違えど志を同じくする,「男がミス・フランスを目指して何が悪い」という素朴な行動原理を貫こうとする青年の物語。おそらく敢えてだと思うが,主人公の性的指向にフォーカスしないところに,ユニークさと弱さのどちらもが感じられるものの,主人公を応援する疑似家族の賑やかさがそれを補う。「ミスコン」という世の中的には「オワコン」となってしまったイベントに,これまた敢えてフォーカスしたところにも,#Metooに反論したカトリーヌ・ドヌーヴに代表されるフランス人の意識が汲み取れて興味深い。
★★★

「私は確信する」
フランスで実際に起こった,いまだ未解決の女性失踪事件に材を取った法廷劇。おそらくは「子供三人を残して主婦が失踪するわけがない。間違いなく(夫に)殺されたはずだ」という世間の見方と,「無罪」という評決との落差故に,当地では時事ネタとして相当話題になった事件なのだろう。フライヤーには「40万人動員の大ヒット」とある。日本で言えばさしずめ「ロス疑惑」と言ったところか。ただ同様に,現実に起こった未解決の事件を扱った作品である「殺人の追憶」を既に知っている身としては,映画のアプローチは異なれど,本作を観る眼はどうしても厳しくなる。弁護士役のオリヴィエ・グルメの奮闘を持ってしても,膨大な通話記録の検証だけに頼った平板な展開を救うことは出来なかった,という印象。
★★

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」
まったく予備知識なしで観たが,戦争への従事が単なる勤労として日常生活に組み込まれた街,という設定が殊の外,有効に機能しており,楽隊が演奏する音楽も含めて緊張感のある単調さが快い。公務員の名札だけに依拠した,勤労以前の思考停止状態の業務が,公務として成り立っている様子や,好き嫌いのみで楽団員を差別する指導者の姿などは,日本の現実社会を「新聞記者」とは異なる角度から抉っている,と言えなくもないが,紋切り型の棒読み台詞回しや美術,撮影陣の奮闘で作り上げた異世界の造形だけでも見る価値はある。
★★★★
(いずれも★★★★★が最高)

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