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映画「オーヴァーロード」:J.J.エイブラムスの印籠鮮やかな戦争ホラー

2019年05月18日 22時47分46秒 | 映画(新作レヴュー)
「スター・トレック」の新作シリーズで実績を上げ,新たな「スター・ウォーズ」三部作のクリエイターに指名されたことによって,往時のスティーヴン・スピルバーグと並ぶ,世界中で最も忙しいフィルム・メイカーの一人となったJ.J.エイブラムス。正直,相性という点では,決して良いとは言えない監督なのだが,彼が関わった新作「オーヴァーロード」に,今ではすっかり廃れてしまった2本立て興行の添え物として,一時は需要が高かった「B級戦争アクション」を復活させる試み,という匂いを感じて早速劇場に出掛けてみた。

「史上最大の作戦」として後世の歴史に名を残すこととなったノルマンディー上陸作戦を成功させるべく,ナチスの妨害電波発信基地となっているフランスの片田舎の教会に,連合国軍の空挺師団が潜入を試みる。だが村はナチスが完全に支配していた上,その教会の地下では恐るべき「兵器」を作り出すための実験が行われていた。
さすがに監督までは手が回らなかったようだ(今回は製作)が,これまでのエイブラムス印が刻印された作品同様に,掴みはOK。落下傘部隊を運ぶ輸送機の撃墜からスクランブル降下までを一気に見せる導入部は,一連の宇宙もので鍛えたと思しき立体的な位相を活かす画を作り上げて,非常に高い水準を獲得している。
ナチスが「千年兵器」の開発を目指して,人体実験を繰り広げている教会の地下基地の異様なプロダクションも同様に,小さい子が観たら間違いなく心に傷を残すであろう,おどろおどろしい壁の質感と装置で観るものを圧倒する。この辺りまではいよいよ正統派の「B級戦争映画」の復活か,と期待は膨らむ。

しかしエイブラムス作品の常である「フレームは立派だが中身はスカスカ」という悪い癖が,ここでも露呈する。これだけ周到に準備された種々のコンテンツが,物語の起伏の創造にまったく寄与しないのだ。教会への侵入劇における緊張感の欠如,千年兵器自体の迫力不足,戦隊ヒーローものも真っ青のご都合主義爆破シーンなど,アクション映画としての肝とも言える要素が揃って討ち死にした瞬間,プロダクションが「オーヴァーロード」されてしまったのか,という感想が頭を過ぎる。
仕立てこそが命,というのが「エイブラムス印」と考えれば,純度100%のエイブラムス作品。熱狂的ファンにのみ推薦。
★★
(★★★★★が最高)


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