子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ペコロスの母に会いに行く」:昭和2年生まれの監督が描く現代版「母もの」

2014年03月02日 22時09分20秒 | 映画(新作レヴュー)
松竹B級コメディの職人から,いつの間にやら京都と大船の両撮影所の伝統を引き継ぐ「マエストロ」という場所に立たされてしまったという印象を受ける86歳の森崎東が撮った新しい「シャシン」は,笑わせて泣かせて,とにかく楽しませる精神に満ちた秀作だ。
113分という尺を「プログラム・ピクチャー」と呼ぶことはさすがに憚られるのだが,肩の力の抜け具合と,それに反して必要なショットが正確な構図で用意される収まり具合には,才気煥発な若い監督たちの作品から受ける新鮮な刺激とは別種の映画を観る醍醐味が確かにある。

仕事と趣味のバランスを上手く見つけることが出来ない団塊世代の息子(岩松了)が,徐々に認知症が進行していく母(赤木春恵)を見守りながら,彼女の人生そのものを理解していく。「ボケる事も,悪いことばかりではない」という独白に辿り着くまでの道程は,決して平坦ではないのだが,漫画家らしい「笑い」によって救われながら,よろよろと進んでいく。
舞台となる長崎に落ちた原爆,家庭内暴力に悩んだ幼き日の記憶,認知症の母を取り巻く認知症予備軍の親戚たち,といった重くなりがちな複数の要素を,的確にさばいていくマエストロの筆捌きは,主人公が描く漫画の線のように,実にリズミカルで軽やかだ。

最近の日本映画でここまで笑わせる作品は記憶にないくらい秀逸なギャグがちりばめられているが,姉をホームに訪ねた妹たちの車中の会話を聞きながら,息子が呟く一言には吹き出した。
画面に並んで映るだけでそこはかとない温かみが伝わってくる,息子と行きつけの喫茶店のマスターである温水洋一の二人のやり取りは,「男はつらいよ」の寅さんとたこ社長のじゃれ合いを彷彿とさせる。
場内にこだました笑い声と鼻水をすする音もまた,とても温かかった。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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