子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「僕らの未来へ逆回転」:今年,最も美しかったラストシーン

2008年12月19日 20時50分28秒 | 映画(新作レヴュー)
劇中,閑古鳥が鳴くVHS専門のレンタルヴィデオ屋の店主(ダニー・グローバー)が,繁盛している大手のDVDレンタルショップをリサーチした結果を基に,「これから店に置く作品のジャンルは,コメディとアクションの二つだけにする!」と宣言する。
まさに利益至上主義の極北まで到達してしまったように見える現代のハリウッドの姿勢を象徴した台詞だが,正にその潮流のど真ん中に,アナログでアナクロな手触りを伴ってぽこんと飛び出した,コメディともアクションとも社会派ドラマともつかない「売りにくい」典型のような作品だ。しかし作品の志は,劇中のVHSテープのレンタル代よりもかなり高い。

本作の監督であるミシェル・ゴンドリーは「エターナル・サンシャイン」において,昔の恋人の記憶だけを消す手術という突飛な設定を,人間の記憶と感情の関係を巡る美しいラブ・ストーリーの中で巧みに昇華させてみせた。その余勢を駆って,今度は「強力な電磁気を帯びてしまった男」という,これまたSF的な設定から始まる(一応)コメディで,「ニュー・シネマ・パラダイス」に挑戦状を叩きつけた格好だ。

ジャック・ブラック演じる主人公が帯びた電磁気のせいで映像が消えてしまったVHSに,リクエストに応じて家庭用ヴィデオカメラで作った簡易リメイクを入れてしまおう,という馬鹿馬鹿しいアイデアが生きている。
「ゴースト・バスターズ」から「ラスト・タンゴ・イン・パリ」まで,絶妙かつ微妙な作品選択も功を奏し,ものを作ることの楽しさと尊さが,その撮影風景の可笑しさと,映像の馬鹿馬鹿しさこそを愛する下町の人々の下世話なパワーに彩られて,豊かに綴られる。
この辺りの楽しさには,ゴンドリーの前作「ブロック・パーティー」で描かれた,地縁=コミュニティーの力を蘇らせたいという熱い思いから地続きになった力がある。

そして,そのコミュニティー(地域)再生に向けられた大勢のエネルギーが,最高の形で結実するラストシーンは,本当に美しい。客演のミア・ファーローが微笑む横顔には,キャロル・リードの「フォロー・ミー」の時のような純粋ささえ漂っていた。
そんな空気を醸成した大勢の人の心のユニティー(統一)は,コミュニティーが崩壊する寸前の一瞬の出来事に過ぎない,という冷徹な事実を用意しつつも,ゴンドリーが彼らに向けるまなざしは温かい。それはまるで,手作りのリメイク作品のように,たとえ見た目は違っても,「とにかく作るぞ!」という意志さえあれば未来は何度でも作り直せるんだ,と語っているようだ。

原題は「Be kind Rewind(巻き戻しにご協力いただき感謝します)」というテープ時代のレンタル店の標語だが,舞台となる店の佇まいは日本の地方都市に住んでいる私にとっても実に懐かしいものだった。24年前に給料で初めて買ったVHSのデッキのことと同じくらい,ヴィデオ店の窓にかけられた白い布に映るファッツ・ドミノの映像のことも,忘れずにいたい。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-12-02 18:16:14
ファッツ・ドミノではなくファッツ・ウォーラーです。
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