子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「花筺」:瑞々しい破天荒に満ちた169分

2018年01月20日 16時00分06秒 | 映画(新作レヴュー)
のっけからヒロインらしき少女が大量に喀血するわ,どこから見ても40代にしか見えない長塚圭史がニヒルな学生役でちゃっかりと教室に居座っているかと思えば,さっさと教室から出て行くわ,昨今の禁煙ブームなどどこ吹く風とばかりにみんな気持ちよさそうに煙草を吸うわ,あれあれこれが「余命宣告」を受けた80歳に手が届こうかという映画監督の作品かと驚いているうちに,あっと言う間に時間が過ぎていく。きちんと体裁を整えられたお行儀の良い娯楽作品を尻目に,大林宣彦監督は着想から40年以上の時を経て発酵したイメージを自由に紡いで,物語からどんどん逸脱していく。鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」と双璧を為すような偉業だ。

鷲尾いさ子。原田貴和子。日本的な叙情を内に秘めた物語を描きながら,一方でヒロインを務める旬の女優を次から次へと脱がせていくことで有名だった大林監督のパッションが健在だったことが,実は一番の驚きだったかもしれない。本作でもこれまでの作品同様,直接的な性行為の場面や裸は出て来ないのだが,喀血する薄幸のヒロイン矢作穂香を脱がせることに加え,門脇麦の太ももを伝う血を見せ,更に満島真之介に至っては殆ど必然性がないと思われる場面でもひたすら上半身裸で演技をさせている。だが一見「必然性がない」と思われるそんな,登場人物が潔く脱いだり,性別を問わず濃密に絡んだり,といった「生」を称揚する場面の積み重ねが,直接的な反戦描写よりも,戦争へ向かう時代の空気を鋭く抉っていく。大陸の戦争がやがて太平洋戦争へと拡がっていく暗く激動の時代に,地方の若者の営みをアナログ加工した映像で粘り強く描き倒すことで,今の日本が使っている海図の危うさを検証しようとした監督の試みは,九州の唐津のおくんちのエネルギーによって見事に結実したと言える。

舞台となる唐津の美しい自然に加え,民家の造作における美術,活動大写真の伴奏と呼ぶに相応しい音楽,どのスタッフも役者陣も,監督へのリスペクトと共に仕事をする歓びに溢れた成果が画面に見事に定着している。特に若者(役柄上)たちの中心に立ち,彼らを包み込むような柔らかさで微笑む常盤貴子の安定感は特筆もの。念願だった映画を撮ることで「余命」期間を越えて今も生き続ける大林宣彦監督の業とエネルギーに拍手を送りたい。次作は松岡茉優にそのパッションを!
★★★★
(★★★★★が最高)


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