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映画「パディントン2」:飛び出す絵本に描かれた古き良き大英帝国

第1作は劇場公開を見逃してしまったのだが,BS放送でチェックした際,その迂闊さを悔やんだものだった。英国紳士が備えるべき礼儀正しさ,正義を希求する心,勇気と愛情,そのすべてを兼ね備える完璧なモデルは,実はロンドン生まれの人間ではなく,ペルーからやって来た1匹の幼い熊だった,という寓話が,ほぼ完璧に映像化されているのを目の当たりにして,液晶画面に向かって一人拍手をしたものだった。
フライヤーにも描かれているピンク色の囚人服を着たいかつい囚人たちに囲まれ,その中心に鎮座するパディントンは,第1作を凌ぐほどに頼もしくまた愛らしい。

第1作でニコール・キッドマンが演じた悪役を担うのはヒュー・グラント。ドッグフードのCMで糊口を凌ぐ落ち目の俳優,という役柄は,グラント自身を二重写しにしているとも見えるが,威厳だけは保ちつつ帝国主義時代の幻影を追いかける老大国,というイメージは,実はイギリスそのものと捉えることも可能だ。それと同様の観点で,外国からやって来た,見た目の異なる異邦人という意味で,パディントンはイギリスに入国しようとする難民の象徴と言えるだろう。物語の中でもパディントンを敵視し,犯罪人として断罪しようとする「街を守る会」会長は,まるでブレグジット(EU離脱)賛成派の代表のようだ。そんな厳しい現実を踏まえつつ,古き良き時代に満ちていた柔らかな空気を楽しむという高いハードルをクリアした末に出来上がった作品は,ウェス・アンダーソンやティム・バートンの最良作品群にも通じる風格を備えるに至った。

パディントンのロンドンの家族となるブラウン家の面々を,短い描写で描き分け,各々のエピソードを物語の中に織り込んでいくポール・キングの脚本は,その演出と同様に極めて巧緻。移動遊園地や最後はミュージカル劇場と化してしまう刑務所のセットも素晴らしいが,何よりパディントンの造形は,上野のシャンシャンを観に行けない人もきっと満足できるはず。
極上のハッピーエンドに向かって全速力で突き進む由緒正しい物語は,同じロンドンを舞台にした傑作でありながら,決してご家族向けには推薦できかねる「キングスマン:ゴールデン・サークル」とは違って,これぞ「家族で鑑賞すべき正しいお正月映画」と強く推薦したい。
★★★★
(★★★★★が最高)
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