この作品が公開されるまで「アンヴィル」というグループ名も知らず,彼らがやっている音楽にも殆ど,否,「まったく」興味がなかったにも拘わらず,予告編を観て是非とも本編を観たくなった作品だ。
だがロードショー公開はあっという間に終わってしまい,結局観ることが能わずに地団駄を踏んでいたら,札幌唯一の名画座である「蠍座」が間髪を入れずフォローしてくれた。そのおかげで,映画館の椅子で幸せな81分間を過ごすことが出来た。「音楽はいつまでも残るのが素晴らしい。まあ,借金もそうだが」というラストのモノローグは,笑えて,かつ実に「ヘヴィー」だ。
まだ「スラッシュ・メタル」という言葉が今ほど一般的ではなく,似たようなグループが十把一絡げに「ハード・ロック」や「ヘヴィー・メタル」等と呼ばれていた時代から,30年以上に亘って活躍,否,「活動」してきた二人の男の軌跡を描いたドキュメンタリー。
アンヴィルに影響を受けたグループが幾つも彼らを追い越してメジャーになっていく中,自身の成功を収めることは叶わず,カナダに留まって地道に活動を続けるリップスとロブの二人の姿は,ジャンルこそ違え涙に彩られた「演歌の花道」そのものだ。実際,どん底とも言える苦境から這い上がることが出来なかった彼らが,映画のラストで,至福のスポットライトを浴びる場所は「幕張メッセ」なのだ(彼らを救うのが,マニアックなメタル・ファンの日本人というのも,日本人にとってはなかなかこそばゆくて,嬉しかったりする)。
映画をただの「ど根性野郎への賛歌」にしていない理由の一つには,冒頭に記した台詞に代表されるように,自分たち自身の姿,そして音楽を,意外なほど冷静に見つめる彼らの姿勢が挙げられる。家族をも巻き込みながら狭く険しい我が道を邁進することに対して,彼らが浮かべる後ろめたさとプライドが入り交じった表情には,日本の普通のサラリーマンの共感をも得られる「何か」が宿っている。
だから,大物プロデューサーを迎えてレコーディングを行っている最中に勃発する激しい喧嘩は,二人の率直な感情の発露にも,プロレスの前口上のようにも見えながら,決して特別な事件ではない,誰もが日々乗り越えなければならない日常的な課題として,真に迫ってくる。
観終わって,帰りにタワーレコードを覗いたら,作品中で何度も言及される「Metal on Metal」がちゃんと売られていた。買おうという気にはならなかったが,心の中で「おじさん,頑張れ」と呟いてみたら,「買わないんなら,あっち行け!」という絶叫が聞こえたような気がした。
★★★☆
(★★★★★が最高)
だがロードショー公開はあっという間に終わってしまい,結局観ることが能わずに地団駄を踏んでいたら,札幌唯一の名画座である「蠍座」が間髪を入れずフォローしてくれた。そのおかげで,映画館の椅子で幸せな81分間を過ごすことが出来た。「音楽はいつまでも残るのが素晴らしい。まあ,借金もそうだが」というラストのモノローグは,笑えて,かつ実に「ヘヴィー」だ。
まだ「スラッシュ・メタル」という言葉が今ほど一般的ではなく,似たようなグループが十把一絡げに「ハード・ロック」や「ヘヴィー・メタル」等と呼ばれていた時代から,30年以上に亘って活躍,否,「活動」してきた二人の男の軌跡を描いたドキュメンタリー。
アンヴィルに影響を受けたグループが幾つも彼らを追い越してメジャーになっていく中,自身の成功を収めることは叶わず,カナダに留まって地道に活動を続けるリップスとロブの二人の姿は,ジャンルこそ違え涙に彩られた「演歌の花道」そのものだ。実際,どん底とも言える苦境から這い上がることが出来なかった彼らが,映画のラストで,至福のスポットライトを浴びる場所は「幕張メッセ」なのだ(彼らを救うのが,マニアックなメタル・ファンの日本人というのも,日本人にとってはなかなかこそばゆくて,嬉しかったりする)。
映画をただの「ど根性野郎への賛歌」にしていない理由の一つには,冒頭に記した台詞に代表されるように,自分たち自身の姿,そして音楽を,意外なほど冷静に見つめる彼らの姿勢が挙げられる。家族をも巻き込みながら狭く険しい我が道を邁進することに対して,彼らが浮かべる後ろめたさとプライドが入り交じった表情には,日本の普通のサラリーマンの共感をも得られる「何か」が宿っている。
だから,大物プロデューサーを迎えてレコーディングを行っている最中に勃発する激しい喧嘩は,二人の率直な感情の発露にも,プロレスの前口上のようにも見えながら,決して特別な事件ではない,誰もが日々乗り越えなければならない日常的な課題として,真に迫ってくる。
観終わって,帰りにタワーレコードを覗いたら,作品中で何度も言及される「Metal on Metal」がちゃんと売られていた。買おうという気にはならなかったが,心の中で「おじさん,頑張れ」と呟いてみたら,「買わないんなら,あっち行け!」という絶叫が聞こえたような気がした。
★★★☆
(★★★★★が最高)