朝ドラの特徴とも言える「登場人物全員集合」としなかった最終回は,実に良かった。終盤の軸となったプロット,ヒロイン喜美子(戸田恵梨香)の息子武史(伊藤健太郎)の闘病から死に至るプロセスを,ナレーションだけで表現した潔さも評価できる。哀しみを乗り越えて信楽焼に没頭する喜美子のアップをラストショットとしたことも,物語の幕切れに相応しい判断だったと言える。
だが,全体を通した評価となると厳しいものにならざるを得ない。脚本は一体どこで道を誤ったのか。
横暴な父に堪えるけなげな長女喜美子の成長物語として,前半部分はかなり快調なペースで時間を刻んでいた。特に大阪丁稚篇は,多彩な登場人物のおかげでテンポも良く,大久保さん(三林京子)のいびりにちかい教育も,必ず出口はあるはずという視聴者の期待を裏切ることなく,颯爽と駆け抜けた,という印象が強い。
信楽に戻ってきてからも,終生の師匠深野先生(イッセイ尾形)との出会いと別れ,八郎(松下洸平)との恋あたりまでは,前作「なつぞら」の失速の轍を踏むことなく,ペースを維持できるかと思わせる出来だった。
だが年が明けて,喜美子の陶芸家としての活躍がメインプロットとなったあたりから明らかに物語は停滞し始める。それまでどんな父親の横暴にも堪えて,家庭を守ってきた喜美子が,突然陶芸の道を究めることに目覚め,最後には夫を捨てて穴窯を選ぶという決意をするに至っては,キャラクター崩壊と呼んでも差し支えないほどの違和感が浮き上がってきてしまったのだ。しかもそのまま陶芸家として茨の道を歩んでいく,という方向に舵を切るのかと思わせておきながら,終盤は最愛の息子の病気と闘う母という,またもや「家庭」フェーズに舞い戻って,視聴者の涙腺を絞りにかかる。そんな物語の振れ幅の大きさよりも,キャラ変の唐突さに目を白黒させた視聴者は私だけではないはず。実在のモデルがいるドラマの宿命なのかもしれないが,これは明らかに構造上の致命的な欠陥だった。
ある意味,終盤に突如として挟まれたスピンオフ的「喫茶サニー」の一週間分が,そんな脚本の迷走を象徴しているのかもしれない。
最後まで東京VSローカルの人情話合戦だけで半年を乗り切ってみせた「ひよっこ」の粘り腰と比べてしまうと,偉人伝の限界を感じてしまった「スカーレット」だったが,次回の古関裕而夫妻の生涯を描いた「エール」,初の4Kどうでしょう?
★★
(★★★★★が最高)
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