子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ビルド・ア・ガール」:わきまえないガールが地響き立てて突き進むのだけれども…

2021年11月14日 21時30分26秒 | 映画(新作レヴュー)
音楽ライターの青春物語と聞いて,真っ先に思い浮かべるのはキャメロン・クロウの「あの頃ペニー・レインと」だ。クロウ自身の体験を基にした,若き音楽ファンが家を出てロック界に身を置き,傷付きながら人生を学んでいく物語は,ここまでのクロウのフィルモグラフィーの中で,今もなお最も高い場所に位置する秀作だった。特にツアーの仲間たちとエルトン・ジョンの「タイニー・ダンサー」を合唱するシーンの高揚感は,まだ「ロック」が社会の中において創造と破壊を象徴するものとして持っていた,熱いエネルギーの減衰が始まる前の最後の煌めきとして鮮明に甦る。
俳優・監督のジョナ・ヒルの妹にして「レディ・バード」と「ブックスマート」という2本の瑞々しい高校生物語に出演し,一躍脚光を浴びたビーニー・フェルドスタインが主役を張った「ビルド・ア・ガール」もまた,「実録音楽ライター成長物語」というフレームを持った作品だ。

冴えない女子高校生が,勇気とバイタリティを武器に,燦めく才能と野望と権謀術数が渦巻く音楽業界を突き進んでいく,という物語は,まだ高校に在学中という差異こそあるものの,まるで社会のエントランスで思い悩んでいた「レディ・バード」の主人公の分岐路のひとつのようにも見えてくる。頭角を現していくきっかけが,歯に衣着せぬ「毒舌」というのも,ありがちな展開ではあるものの,フェルドスタインの持つ個性とマッチしてリアルな成功譚を立たせている。キャスティングの勝利と言えるだろう。

ただ自伝の映画化という制約上,ある程度は仕方なかったのかもしれないが,彼女が自分のポジションを得る音楽誌とそこで働くライターたちという重要な部分に関する描写が,呆れるほどに類型的で深みを欠いていることが,物語の深化を妨げている。年若いライターの感受性を損なわずに,プロの書き手として育てていくメンター役が不在なのは,シナリオ段階での決定的な瑕疵だろう。
更にまだ未成年の彼女が,単独で人気アーティストのインタビューに出かけて彼の秘密を聞き出す,というプロットも,ポリコレ的な視点を抜きにしても,脆弱なツイストにしかなっていない。
これで音楽的なフック,例えば上述した「タイニー・ダンサー」のような場面がもし一つでもあれば,全て許してしまえるのが音楽を題材にした映画の強みなのだが,それもないとなると,残念ながら星はこれが関の山。
★★
(★★★★★が最高)


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