子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「キック☆アス」:リアルで過剰な描写が提起した’10年代のヒーロー・ヒロイン像

2010年12月29日 23時54分46秒 | 映画(新作レヴュー)
防弾チョッキを着せられた11歳の女の子が,父親(ニコラス・ケイジ)から銃で撃たれる訓練を施され,最後は殺人マシーンと化して,次から次へと悪人を薙ぎ倒す。時にかなりリアルな描写を観ながら,あり得ない話ではあるけれども,もし青少年健全育成条例を改定したばかりの東京都知事がこの作品を観たら何と言うだろうか?ということを考えていた。コミック特有の誇張された表現を,映画独自の描写へと移植する技術と表現に関する志の高さが作品に付与した前向きなパワーを,御老体は正面から受け止めて,評価することが出来るだろうか?

「スパイダーマン」のヒットから急増した,アメコミの映画化の流れの中で,監督のマシュー・ヴォーンと原作者のマーク・ミラーがやりたかったことは,お伽噺の検証をコメディの形式を借りてタイトにやってのけたロブ・ライナー「プリンセス・ブライド・ストーリー」のコミック版だったのかもしれない。落ちこぼれの青春を,笑いと暴力を塗して描くことで,逆に市井の人の辛さを浮き彫りにしていくという話の核そのものは,目新しいものではないものの,数多のマーヴェルもののパロディという衣もまとって退屈させない。
過激な殺戮シーンゆえにR-15指定を受けてはいるものの,アクションそのものが世の中におけるヒーローの位置付けを逆説的に考察した真面目な物語の中で適切な場所に収まっているために,いたずらに暴力を煽り賛美する描写,という印象を与えないところが,この作品の成功を証明している。

主役のキック・アスを演じたアーロン・ジョンソンの控えめな一途さも捨てがたいが,やはりクライマックスをさらうヒット・ガールの造形が,この作品の肝だろう。「(500)日のサマー」に出ていた子役クロエ・グレース・モレッツは,稀に見るはまり役を得て甦ったニコラス・ケイジの完璧なサポートもあって,我らが芦田愛菜にもアクション映画に挑戦させたくなるような,鮮烈なヒロイン像を見せてくれている。

展開としては「スパイダーマン」と同様の幕切れとなったが,これで続編を作らなければ,真の意味でのパロディになるのだが,興行収入で1位を獲得しているだけに果たしてどうなるのか,興味は募る。
エンド・クレジットに被さるMIKAの煌めくような歌声が,余韻を残す。
★★★★
(★★★★★が最高)


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