子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「スパイナル・タップ」:他人のゲロで窒息して死んだドラマーよ,永遠に!

2018年08月04日 12時28分05秒 | 映画(新作レヴュー)
いろんな経緯はあったにせよ,公開当時に制作国で話題となった作品にも拘わらず,我が国まで到達する前に燃え尽きて,劇場では未公開に終わった秀作というのは枚挙に暇がない。世界的な評価が定まった後のルキノ・ヴィスコンティ監督作でさえ,一時期は興行的な成功が困難と判断されて,日本では何年も公開されずにお蔵入りだった作品が何本もあったのだ。ましてや公開当時は新人監督の作品で,音楽映画なのか,コメディなのか,分類も売り方も良く分からなかったであろうロブ・ライナーのデビュー作「スパイナル・タップ」が,制作後36年という年月がかかったにせよ,劇場公開に漕ぎ着けたというのは,映画界にとっても音楽界にとっても慶事であることは間違いない。公開に尽力された関係者の皆さん,本当にありがとう。

イギリスのロックバンド「スパイナル・タップ」がアメリカでツアーを行う,その模様を映画監督(ロブ・ライナー自身)がバンドメンバーへのインタビューを交えて記録していくドキュメンタリー映画。しかし,実際は「スパイナル・タップ」は架空のバンドであり,従って全米ツアー自体もフェイク,劇中に挟まれるバンドの裏舞台の様子も,すべてがシナリオに書かれたとおりに進行していく,いわば「プロレス興行」のロック版とも言えるコメディ作品だ。
しかしその仕掛けは実に手が込んでいて,1960年代半ばから活躍していたビートルズの亜流バンドがハードロック系の音楽に変容して人気を博したものの,既に凋落の一歩手前にさしかかっている状態,という設定が肝。
音楽のジャンル的には「ハードロック」ではあるものの,ヘヴィメタルにはなりきれず,露悪的に見えて内容空疎な歌詞を妙に滑らかなメロディに乗せて歌うバンド,というのは実際に70年代後半から80年代前半にはたくさんいて,パンク・ニューウェイヴに端を発するブリティッシュ・インヴェイジョンに乗り切れなかったバンドの末路の物語は,音楽業界のパロディとしても最高に楽しめる。

バンドのオリジナルメンバーが幼馴染みで,成功した暁にメンバーの恋人が活動自体に介入してきて,やがては彼らを育てたマネージャーと仲違いをし,主要なメンバーも脱退してしまう。じつにありきたりなプロットの一つ一つが,一歩引いた視点で捉えることによって「業界あるある」として機能していく部分は,お伽噺を分解して再構築することで新しいコメディに仕立て上げた「プリンセス・ブライド・ストーリー」の音楽版とも言える作品だ。
最後に出てくる救世主が,日本のヘビメタファンというオチは,やはり優れたロック・ドキュメンタリー(こちらは本物)だった「アンヴィル!夢を諦めきれない男たち」を想起させる。クリエイティヴという意味では,間違いなくロブ・ライナーの最高傑作だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。