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映画「トランス」:ややこしいけれども軽快でシャープな睡眠誘導犯罪劇

「127時間」からロンドン・オリンピック開会式の演出を経たダニー・ボイルの新作。その骨格は初期2作を彷彿とさせるような犯罪映画なのだが,そこに心理操作が絡んで主役3人が輻輳する展開は,シンプルなストーリーで盛り上げた「127時間」の対極に位置する。キャリアを積む度に,着実にテクニックの引き出しを増やしてきたボイルの演出力は,いつもながらの音楽のセンスと相まって,今回も冴えを見せる。

オークションのディレクターを務めるジョン(ジェームズ・マカヴォイ)が,強盗団にゴヤの絵を盗まれる。しかし絵はジョンの機転で盗難を免れるが,実はジョンは強盗団の一味でありながら,一時的な記憶喪失に陥り,絵の行方を思い出すことが出来ない。思いあまった一味は,心理療法士(ロザリオ・ドーソン)による治療に全てを賭ける。

最初は単なる記憶喪失と思われていた主人公が,実は犯罪行為を行う前から心理療法士による催眠術を使ったコントロールを受けていたということが,後半で明らかになる。その瞬間から我々観客は,クリストファー・ノーランの出世作「メメント」と同様の作業に追われることとなる。すなわち,それまで画面上で繰り広げられていた出来事のうち,何が催眠術の為せる業で,何が偶然起こった出来事なのか,療法士の意図を越えたアクシデントはどれなのかを分類して,真の物語をつなげて行くことに没頭せざるを得なくなる。
これは「127時間」を貫いていたシンプルで野太い物語=ピュアな感動から,敢えて距離を置こうとするボイルの確信犯的なチャレンジに他ならない。

観客に課される作業は実にややこしく,疲れるものだが,切れ味鋭く空気を切り裂く音楽は軽やかで,これまでのイメージを良い意味で覆すジェームズ・マカヴォイの充実した演技も光り,総じてその疲労感は後味の悪いものではない。治療に通う療法士の選択や,彼女から送られるメールのタイミングなど,最後まで判然としない些末な事柄の解明も含めて,リピートしたいと希望する観客は少なくないはず。
もう少し官能的な雰囲気があれば,私もその列に並んだかもしれない。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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